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2007年05月02日

映画と、若い人との、幸福なコミュニケーション。

テーマ: かく撮りき

窓から見える八重桜と、野川の辺を散策する人と犬。

 双葉十三郎さんから頂戴した『外国映画ぼくのベストテン50年』を、愉しみながらゆっくり読ませて戴いている。双葉さんは1910年生まれだから、おやおやもう96才におなりになる。ぼくなどが生まれるずっと前から映画をご覧になって来た方です。うーん!
 その書物の帯の文字がぼくの目を引く。「映画は自分が愉しむもの/好き嫌いは各人の自由であり/特権である」。うーん!
 双葉さんは、いわゆる「映画評論家」、という枠など超えていらっしゃる。評論家ならば映画に対する世間や歴史上の一定の基準を考慮して論考を進めるという配慮もまた必要であろう。双葉さんはそれを「自由」と仰る。つまり世間の規範に囚われず、御自身の責任で映画を語る、という意思表示でもあろう。だから双葉さんが語られる映画の話はこよなく愉しい。映画の魂なるものが読み手に伝わって来るようだ。この帯の一文はそういう映画の見手としての双葉さんの、覚悟のように毅然とした意思を表わすものだが、作り手の側が安易にこの言葉を真似すると、とんでもないことになる。
 作り手にとっては、それ故に「誰もが理解し、好きになって貰えるよう、努力する義務」があるのであります。所が近頃では、「どうせ好き嫌いは見る者の自由なんだから、好きな人だけ見て下さい。嫌いな人は見なくってもいいよ」、という態度で映画が作られるケースが多いようだ。それは、つまりは映画が衰退していくことに繋がるから恐い。
 「二・二・六の法則」、というものがあるのだそうで、「どんな失敗作をこしらえても愛してくれるファンが必ず二割はいる。その逆に、どんなに成功作を作ってもお前の映画は嫌いだという人が二割はいる」、という条理があって、こればかりはこの世の中どうにもならぬ。故に問題は残りの六割の人が好きになってくれるか嫌いになるかが、作品が成功するか否かの分かれ道。努力を重ねれば、六割の人が味方になってくれる。故に作り手は「総ての人に愛されるよう努めなくては」、という教えである。
 それを厭えば、結局は二割の人だけを相手に映画を作り続ける事になり、誉められたからと言って喜んでばかりはいられないって事であります。

 サミー・デイヴィスJrというエンタテインメントの芸術家がいて、彼の言葉にもこういうものがある。「ぼくは総ての人に愛されたいと願うが、そんな事はある筈がない。世界の半分の人に愛されて、残りの半分の人からは“あいつの事は好きではないが、でも一所懸命努力している事だけは良く分かるよ”と言われれば、こんなに素敵なことはないよ」。
 名脚本家の笠原和夫さんが、ある時パーティで、その年度のベストワン作品を作ったプロデューサー氏に「でもこの映画、一部の人は理解出来ないかも知れませんね」、と語った所、「ああ、それはいいんです。分かる人だけ分かってくれれば」、とプロデューサー氏が応えた。笠原さんは、「ああこんな時代になったのでは、自分はもう引退しよう」、と悲しく決意されたと言う。総ての人に面白く為になる映画をこそ、と笠原さんたち日本映画の伝統的な映画人は、そう努力されて来たのだから。
 先日、『日本映画監督協会』が主催する『監督協会新人賞』の銓衡委員を努め、昨年度に製作された若い人の映画を43本観せて戴いたが、その時にもやはり現在の映画のありように、先に述べたような事を感じた。これはきっと映画だけの問題ではなく、この時代というものの、コミュニケーションのありようでもあるんだろうなあ。

早稲田大学に送ってくれた恭子さん。

 そんな事を考えながら、新学期。大学通いが忙しくなる季節であります。先日も倉敷にある『倉敷芸術科学大学』に行って来た。新入生がどっと入学して来て賑やかで元気。教室から溢れ出んばかりの若者たちと二日間、彼らが作った映像作品を見ながら熱く語り合う。放課後は近所の居酒屋で、ビールが飲めるようになった上級生たちと歓談。別れ際にはちょっと涙が零れそうになるのですね。彼らの後ろには未来があるんだなあ。

大学前で、安藤鉱平教授、元村直樹さんと。

 昨日は年に一度の『早稲田大学大隈講堂』での講義。今回は二十五年前の《転校生》を午前中に見てくれていて、新しい《転校生》の話やら何やらの約二時間。定員四百人の所を七百人の熱気。ぼくは対話人間なので独り語りより、目の前の学生さんたちと語り合いたいので、こちらも一所懸命未来へ向う若さに挑戦した。考え方はもちろん異なるのだが、彼らも向って来てくれる。ぼくも色色意見されたが、時間が経った後では「こんなに心が震えた授業は初めてです」、などと言い寄ってくれる人もいる。そっと手紙も貰ったし、質問した若い人同士がもっと話し合おうと連れ立って帰っていく。「こんなジジイが未だ映画作っていていいのか?」、と一寸甘えて満場の皆に訊いてみたら、「撮って下さーい」、と大きな拍手。爺ちゃんを元気付けてくれる優しい子たちであります。ようし、まだまだやるぞお! ここでのコミュニケーションは、まことに至福だ。つまりはぼくが勇気付けられるのですね。

早稲田大学のマスコットさんと、パチリ。

 さて今日は、専任教授を務めている『尚美学園大学院』へ出向く。八重桜がたわわな我が家の前で、恭子さんのにっこり笑顔に励まされて、若い人の只中へ。
 では、はい、にっこりパチリ!



安藤教授とは若い時代からの映画仲間です。

七百人の学生さんと授業。

《転校生》に就いての話なども。

若い人の熱気が嬉しい。

日が変り、尚美学園に向う前のひととき。八重桜の下の恭子さんと。

そして、ぼく。

事務所を訪ねてくれた左時枝さんと、安井プロデューサー。

左さんの自作の画の前で。

おお!美しいな!

コメント (1)

実家にある八重桜の前で、毎年写真を撮っていました。
今年初めて、その花を見ていません。八重桜の写真を見て、しばらく実家に帰っていない事に気づきました。

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