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Vol.06:ハーフサイズへの期待

拝啓 設計者より
Vol.06 ハーフサイズへの期待
オリンパス 18(1959)
オリンパス 18 (1959)

「オリンパス ペン」の試作第1号機。画面サイズは18×24ミリであることから"18"と命名された。レンズ周りの表記やトップカバーのデザインなどが量産品と異なるが、基本的なスタイルは既に完成されていた。
「6,000円で売るカメラ」をコンセプトに設計を開始し、それを実現したオリンパス ペン。独創的な発想を凝縮したオリンパス ペンは、1960年代から70年代にかけて、ハーフサイズカメラの大ブームを引き起こし、ペンシリーズの累計販売台数は、1700万台を超えた。

新型カメラへのアプローチ

靴や洋服を新調したり、車を買ったときと同じで、新しくカメラを買うと写真仲間の連中にその新型を見せたくなる。また、カメラ好きの友人達も新型カメラとなると興味津々で、どんなカメラを買ったのか気にもなる。新しいカメラを手に取って、ファインダーを覗いたり、シャッターを切ったり、大きさや重さ、使い勝手はどうかと一つひとつ確かめながら動かしてみる。そして、どんな新機能が付いているのかとか、価格や購買動機などを訊ねたりもする。

カメラを設計するときもまた同じ気持ちと言える。対象となるカメラを色々な角度から検討する事から全ては始まり、どのような機能が良くて、どの部分が不便かなどを分析する。そして、これからどう改良しようかとか、どんな差別化を図っていこうか、どうやって新しさをアピールしようかと考える。

そうした思考過程を経ながら開発を進めるのだが、新しく設計に取り組む姿勢には、技術サイドの視点からアプローチする方法とユーザーサイドからアプローチする方法がある。

技術サイドからのアプローチ

レンズの明るさを一段上げF2の大口径レンズを付けようかとか、シャッターのハイスピードを1/500秒まで速くしようとか、ファインダー倍率を大きくして見やすくするなど、技術サイドからのアプローチの場合は目標が明確で取り組みやすく、完成時の評価も得やすい。

設計者は最先端をいくカメラの技術的時代の流れを常に注視し、新機能の開発に向けた新しいメカニズムに挑戦し続けている。これから作るカメラにどんな新機能を組み込むのかは重要な技術的課題であり、最大の関心事でもある。

設計に着手するとき誰しも思うことは、世の中をアッと驚かせるような、最先端を突っ走る先進的な仕様機能に取り組み、妨げる苦難を乗り越えながら、実現化させるための技術開発に挑戦したいところである。しかし、カメラを設計する上で、そんな大テーマを生かせる機会に巡り合えるチャンスは少ない。

上司から指示された研修用研究テーマでレンズの出っ張りを少なくしたいというのも、この技術的なアプローチによる方法論の一つであった。解決策として、レンズ構成のタイプを変えるとか、焦点距離を変えながら目的にやっとたどりついたところがハーフサイズであった。撮影画面を小さくすることによって焦点距離を短くし、レンズの出っ張りを少なくしようという技術的方法論としての解決策から出たハーフサイズの採用であった。

当時のオリンパス ペンのカタログの紹介
カタログ

わたしは かわいい ペンカメラ。名前はオリンパス ペン。
ペン・・・? ほら、あなたがお仕事をしたり、手紙を書くときに使うペン、あれと同じ名前--小さくって、軽るくって、シガレットケースや万年筆などと、一緒にさりげなく持ち歩るけ、気軽にパチパチやれるんです。
(カタログより抜粋)

当時、驚きの軽さと小ささ、価格の安さでカメラがペンのように身近になったことを表現したカタログのコピー。

カタログPDFデータ
カタログ

・ ペンは350グラム
・ 第1級レンズ
・ フィルムは35ミリがそのまま…
・ スマートなパーフェクト デザイン
(カタログより抜粋)

4つのキャッチフレーズとハードケース1,000円の時代にカメラ本体が6,000円という価格が爆発的なヒットにつながった。

カタログPDFデータ
オリンパスの歩み「カメラの歴史」
ユーザーサイドからのアプローチ

「オリンパス・ペン」の設計に取り組むことになった昭和32(1957)年頃は、丁度カラーフィルムが出始めの頃であった。それも、現在一般的に使われているネガカラーがまだ出現していなくて、フィルム上に被写体と同じ色で写る、映画などに使われるリバーサルカラーの出始めであった。

当時は白黒写真が主流であり、カラー写真は色に惑わされ、即物的すぎて芸術にならないと評価される時代であった。それでも、ソ連で作られた初めての総天然色映画「石の花」を見たときの感動は今も忘れられないほどの強烈な衝撃を受けた。日本の映画では木下恵介監督による高峰秀子主演の「カルメン故郷に帰る」(1951年)で、1部分のシーンのみがカラー化されたのが最初である。まだ、カラーフィルムは強い照明が必要であり、露出の許容範囲が狭いなど使い方も難しく、高価で、映画全篇をカラー化することはできなかった。

スチール写真でもリバーサル・カラーフィルムが使えるようになってきたが、高価すぎて、1日に何本も撮影するアマチュアにとってはそのうちの1本をカラーで撮るのが精一杯であった。

もっとカラー写真を撮りたいが、カメラメーカーではフィルムを安くすることは出来ない。そこで、フィルム1本につき36枚撮るところを72枚も写せるハーフサイズにすれば、1枚あたりのフィルム単価は半額に下げられる。これなら安い給料でも何とか写せるから、ユーザーとして、別の角度からの利点を生かせるハーフサイズを採用することにした。

更にレンズの焦点距離が短くなるところからピンボケしにくいという特性を逆手にとって、ピント合わせのないレンズ固定式とする。それでもほとんどの場合ピンボケせず、ただシャッターボタンを押すだけで簡単に写せる「ホームカメラ」にも挑戦できるのではないだろうかという、ユーザーサイドの視点から見たハーフサイズへの新しい期待があった。

異なる期待値

解決策を模索し、たどり着いた先が同じハーフサイズであっても、その期待するところは大きく違っている。

いずれの視点からアプローチしようとも、カメラを良くしようという設計努力には変わりはない。重点的に取り上げようとする課題は同一になることもあれば、食い違うこともある。

一歩また一歩と、積み重ねることにより技術は進歩していくので、技術サイドからのアプローチは堅実で常識的でもあり、多くの技術者のたどる道となる。

ユーザーサイドからのアプローチでは裏づけのない技術的な飛躍を要したり、逆に、ありきたりのメカニズムで事足りて新鮮味が出なかったり、数値で示せる明確な目標値のない場合がある。そんなカメラの評価は難しく、技術者泣かせとなり、写真雑誌なども騒ぎ立てようのないことが多い。現に、「オリンパス・ペン」の発表会では、同時に発表した日本初のEEメカニズムを組み込んだ二眼レフ試作機「オリンパス・アイ44」に話題は集中し、日本初のハーフサイズカメラであった「オリンパス・ペン」の存在は影が薄かった。

ただ、自分自身がヘビーユーザーの私はユーザーサイドからのアプローチが多く、企画段階の評価では、非常識的な変わったカメラばかり創ると言われた。