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Vol.07:サブカメラ

拝啓 設計者より
Vol.07 サブカメラ
オリンパスペン(1959)
オリンパスペン(1959)

ハーフサイズによる小型軽量化、リヤワインディングによるシンプルな巻き上げ機構、高品質な描写力を持つDズイコーレンズ、美しく使いやすいデザイン。独創的な発想を凝縮したペンは、1960年代から70年代にかけて、ハーフサイズカメラの大ブームを引き起こした。

当時のオリンパス ペンのカタログの紹介
カタログ

シリーズ累計販売台数は1700万台を超え大ヒット商品となった。ペンシリーズの独創性は、後に伝説のハーフサイズ一眼レフシステム、ペンFシリーズを生み出すことになる。

カタログPDFデータ
最重要機能

最初の仕事としての学習用テーマも、研究が進むにつれて「6千円のハーフサイズ・カメラ」と絞り込まれてきたが、さて、どんなカメラを設計しようかと考えあぐねていた。

当時、オリンパスから発売開始されたばかりの普及機が2万3千円であった。その半分の半分、わずか1/4の価格で作ろうというのだから、どう考えてもチャチなものになってしまいそうである。まして、30倍も高価で18万円もするライカに、6千円のカメラで真っ向から対抗することは、いくらなんでも無謀な話である。だが、ライカを愛用してきたユーザーの一人として、これから自分が設計するカメラをオモチャのカメラにはしたくなかった。

低価格なのに、普通のカメラ並みの何もかも組み込むフルスペックのカメラにすると、価格が1/4になったのに比例して1機能あたりに掛けられるコストも1/4に低く抑えることになり、オモチャになってしまう。機能の達成レベルを維持するには組み込む機能の数を減らすしかない。あれもこれも取り付けたくなるところを我慢して、必要とする機能の種類を絞り込み、少なくすることになる。この取捨選択の仕方によって技術サイド、販売サイド、そしてユーザーサイド等、どの角度からの設計アプローチであるかが色濃く出てくる。

そこで改めてカメラの機能を分析してみた。大きさや重さ、使いやすさ、撮影可能範囲の広さ、技術的な時代の流れやスタイルなど、項目は多岐にわたる。しかし、カメラは写真を写す道具であり、最終的には撮った写真の良否がカメラの価値の決め手となると考えた。ユーザーとして自分が使うのなら、たとえ少々使いにくくても、流行の機能が付いていなくても、写した写真が高級機に遜色のない出来映えであることを何よりも最重要機能として取り上げたい。

つまり、写真展に展示した時、ライカの作品群の中に新しく作ったカメラで写した作品が混じっていても、画質が悪くてすぐ判別され、飾い分けできるような低レベルのカメラでは二度と使う気にはならないからである。

レンズ構成の種類
2枚構成のダブレット(第1図)
2枚構成のダブレット(第1図)

2枚の凸凹レンズで構成されたもので単レンズよりも収差補正が優れている。しかし画角を広くとることができないため、大口径レンズでは望遠鏡や双眼鏡の対物レンズ、小口径レンズでは顕微鏡やAVピックアップの対物レンズなどに用いられている。

3枚構成のトリプレット(第2図)
3枚構成のトリプレット(第2図)

1894年にイギリス、テーラー・テーラー・ホブソン社のH.D.テーラーが発明した2枚の凸レンズの間に1枚の両凹レンズが入った形のレンズ。簡単な形式でありながら全ての収差が補正されているため、トリプレットタイプは現代写真レンズの1つの基礎形式となった。

4枚構成のテッサータイプ・レンズ(第3図)
4枚構成のテッサータイプ・レンズ(第3図)

1902年にドイツ、カール・ツァイス社のパウル・ルドルフとE・ヴァンデルスレプによって設計された。3群4枚構成のコンパクト設計のレンズ。当時としては非常にシャープなレンズで万能レンズと呼ばれた。

オリンパスの歩み「カメラの歴史」
レンズ

レンズはカメラ部品の中でコストの高いユニットの一つである。安いカメラを作るときは2枚構成のダブレット(第1図)、3枚構成のトリプレット(第2図)タイプなどが撮影レンズとして使われる。

トリプレット・タイプのレンズは凸・凹・凸レンズの順に組み合わせて、各種収差を除去する撮影レンズの基本形の一つである。スプリングカメラ・二眼レフ・35ミリカメラなどの普及機に広く使われている。更に、前玉の凸レンズを僅かに動かす前玉回転方式にすれば、コストのかからないピント合わせが出来るという特徴を持っている。

6千円のカメラなら、頑張っても3枚玉のトリプレット・タイプのレンズを付けるのが精一杯といったところであろう。

しかし、他の高級機に遜色のない作品を写真展に出展するとなると、トリプレット・タイプのレンズでは役不足である。画質を考えると、やはり、ライカも使っている4枚構成のテッサータイプ・レンズ(第3図)をどうしても付けたかった。しかも、更に高価になるが、レンズ性能を最大限に引き出せるように、ピント合わせにはレンズ全体をそのまま動かす全体繰り出し方式を採用することにした。

一番前のレンズだけを繰り出す前玉回転方式では、前のレンズを動かすのでコストは安いが、次のレンズとのレンズ間隔が変化してレンズ性能が狂う。ことに近距離撮影では前玉の繰り出し量が多くなり、レンズ間隔が設計値と大きく違って、レンズ性能の劣化が目立ってくる。レンズ全体の繰り出し方式を採用すると、レンズ間隔は設計値のままで変わらず、画質も最良の状態に保てる。

上司から、そんな高価なレンズを付けたのではコストが引き合わないとの指摘もあったが、写真を撮るユーザー側に立つとレンズの性能だけは引き下がりたくなかった。

サブカメラ

カメラ作りの条件として第一に最良のレンズを付けること。第二はライカと併用しても違和感なく使える操作性を確保すること。第三はライカと一緒に携帯しても恥ずかしくないスタイルで、オモチャのカメラには見えないデザインに仕上げることなどを取捨選択の最低必要項目として取り上げることにした。6千円のカメラといえどもせめてこれらの条件だけはクリアすることを考えた。

レンズにあまりにもコストをかけ過ぎたので、その他のスペックは簡略化してコストダウンをはからなければならない。フィルムのレバー巻上げとか、コマ数計の自動復元、連動距離計の組み込みなど、当時流行の先端をいく話題の機能はすべて省略するしかない。言うなれば、機能限定、ユーザー限定、高級カメラと併用するサブカメラを狙う事となる。

進めてきた新入設計部員の研修テーマは、当然、商品化の計画もないので、何処からも制約を受けることはない。自由な研究が好きにできるのだが、それでも少し割り切り過ぎたかもしれない。

ここまで絞り込むと、これでは時代の潮流からかけ離れ過ぎて、一般向けのカメラにはなりえない。商品としては通用しないと評価されそうであった。

後になって判った事だが、この機能の絞り込みとその割り切り方が、あらゆる新製品の方向付けを決定する重要なキーポイントとなる。

ユーザーがカメラを手にしたときには何気なく見過ごされてしまう事かも知れないが、そうした心の中での葛藤を経ながら課題の設計を進めていった。