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Vol.10:技術の壁

拝啓 設計者より
Vol.10 技術の壁
自分の時間

仕事に追われて忙しい日々をお過ごしのことと思う。そんな生活を繰り返していて、ふと、休日の朝などに自分を取り戻す時がある。ゆっくりとコーヒーを飲みながら、今日は本を読もうとか、庭いじりをしようと思うことはありませんか?。買い物に付きあったり、子供と遊ぶのもよし、テニスやゴルフなどスポーツを楽しむのもよい。どんなものにその意義を求めてもよいのだが、とにかく自分らしく過ごす時間を持ちたいものである。

忙しさに紛れて、いや、それを口実にして、環境に流されながら惰性で過ごしている生活をここで振り返ることも、時には必要なことではなかろうか。

自分が自分らしく生きるのに果たしてこれでよいのだろうかと、一度立ち止まり、振り返って考えてみる時間も必要なことである。それでリフレッシュされて、つい見失いがちな自分を取り戻す切掛けになり、仕事にも生活にも張りやリズムが出てくると思う。

私はその時間を写真に当てていた。テーマを決めて撮影に出かけたり、写真展・美術展を見にいったり、ビデオ・ムービーの編集をしたり、それで結構忙しい。自分の時間が足らなくて休日が待ち遠しいこともある。学生時代の撮影は写真コンテスト向けの作品作りが目的であった。今は旅の風景であったり、周囲の出来事での身近な感動を自分の目線で描写表現している。

写真が自分の原点なので、自分にしかできない作品作りに邁進していると、撮影目的によっては使っているカメラに不備を感じることがある。それがカメラの使い方や機能の改善にも繋がり、新製品の企画など設計者としての仕事にも生かされる事が多い。

存在しない理由

自分を取り戻すために作った時間を何に使うかは人それぞれである。パソコンで遊ぶとか、カメラを取り出して機械を操る楽しさを満喫するのもよい。毎日、なに不自由なく快適に過ごす生活の中で、こんなものが有ればもっと便利になるのだがと考えるのも一つの方法かもしれない。インフラが整備されている現代社会では、いろいろなお店を探してみると大抵のものはすぐ見付かる。ユーザーからの要望を基に、作れるものから作ってきたからであろう。

しかし、探しても探しても無いことがある。

欲しくて探しているのに、何処にも売っていない物とは、多分、作ろうとしても目的通りに作れなかったというのが、その存在しない理由であろう。商品価値以上に高価になったり、思いのほか大きくなりすぎたり、中でも、望む機能が技術的に解決不可能な要求であることが多い。

簡単に作れるものならとっくに作られているはずである。これまでにない新しい機能となると、いろいろトライはするものの簡単には答えが出ない。夢が先行する中で、その行く手にはいつも技術の壁が幾重にも立ちはだかっていて実現化を阻んでいる。各時代の多くの技術者たちがその壁に挑戦し、切り崩しながら推し進めてきたのが現代の進歩した科学技術の姿である。そして、海を潜る、空を飛ぶ、月に立つといった人類の夢を一つ一つかなえてきたのである。

立ちはだかる技術の壁には厚い壁もあれば薄い壁もあり、対峙する技術者は大なり小なり、日々、挑戦し続けて新製品を生み出している。正面から崩す正攻法もあれば、からめ手から攻めることもあり、アイデアと努力で切り開いている。中には絶対越えられない壁もあり、それは避けて通るしかない。時代の要求度合によって挑戦する度合いも違ってくるが、不可能を可能にする努力が技術者スピリットなのである。

シンプルという名の技術の壁

今までにない高機能のカメラならともかく、安くてシンプルなカメラを設計するのに、大げさな技術の壁などあろう筈がないと思われるかもしれない。確かに、初心者はシンプルなカメラの設計から取り組むことになる。

シンプルには誰がやっても同じ答えの出る簡単なものと、非常に高度な技術を必要とするものとの2種類がある。前者には壁らしき壁もないが、後者の行く手には厚い技術の壁がしっかりとガードしている。後者の、一見簡単そうに見えるメカニズムを見て、みくびってはいけない。実は豊富な経験と実力の結晶であり、究極のシンプル・メカニズムによって完成されているのを見抜かなければならない。

釣りの世界にも同じことを指す諺がある。フナ釣りに始まってフナ釣りに終わると言われる。初めて釣り竿を持って最初に釣れるのはフナである。更に進み、各種の釣りを経験した上で、竿を通して釣り針への魚のアタリを感じ取って釣り上げる、究極の釣りはフナ釣りだからであろう。

写真の世界にも、ポートレートで始まってポートレートに終わると言われる。カメラを持って最初に撮るのは親兄弟のポートレートである。そして、一枚の写真の中に、歴史や人となりの全てを凝縮して写しこむ究極の写真がポートレートであると言われる。

設計の世界では、シンプル設計に始まってシンプル設計に終わるとなる。高級機であろうと普及機であろうとその真髄は変わらないし、普及機の設計と侮ってはならない。普及機に始まって普及機に終わるとも言えるからである。初心者でも設計できる普及機の中には、これまでの高度な技術力を結集させた珠玉ともいえる名機が存在するからである。

カメラを設計するにあたり、まずは新機能を組み込むためにあらゆる手法を使って立ちはだかる技術の壁を破り、目的の機能を果たす努力をする。解決するにはどうしても複雑なメカニズムになってしまうのだが、機能を果たさなければ努力する意味がない。シンプル化してたくとも、それでは新機能が達成できなくなると言わぬばかりに、そこにはまた、更に、シンプル化という名の技術の壁が立ちはだかっている。

シンプル・イズ・ベストはあらゆる設計活動に付いて回るのだが、それを達成するには、何時も厚い技術の壁と戦いクリアしていかねばならない。