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Vol.12:各種の技術的な壁

拝啓 設計者より
Vol.12 各種の技術的な壁
技術の壁を乗り越え
誕生したオリンパスペン
オリンパス ペン
逆ガリレイ式
光枠ファインダー
ファインダーにプラスチックを採用し、発売当初は低コスト化を目指した。
しかし、その後、技術面・コスト面で優位だったガラスに変更した。
ペンに採用した逆ガリレイ式の光枠ファインダーは、構図が簡単に決めることができ、ファインダーを覗く眼の位置が多少ずれても画角に誤りが少ない特徴を持つ。
望遠鏡のレンズは対物が凸、 接眼が凹の構成でガリレイ式と言い、カメラは対物が凹、接眼が凸の構成で逆ガリレイ式と言う。
技術的な壁の難易度

フィルム・カウンターのコスト低減設計は、技術的な壁に挑戦しそれを乗り越えた最良の事例である。全ての壁がそんなに見事に解決できるものではない。目標の半分くらい達成するものもあれば、全く達成できないこともある。

技術の壁に挑戦して見事に失敗した事例を一つ紹介しよう。現在、最高級の撮影レンズにはプラスチック製の非球面レンズが多く使われるようになった。しかし、「ペン」の設計に取り掛かった昭和33(1958)年頃は、やっとプラスチックが登場したばかりで、これからカメラの構成素材として使ってみようかという時代である。まだまだプラスチックの種類も少なく製造技術も確立していなかった。

提案された新素材や新技術には積極的に取り組む姿勢が必要だと日頃から考えていたので、何となく安く出来そうなイメージから、低コストを目指す「ペン」にプラスチック・レンズを採用してみたいと思った。

“写真が命”とばかり、このカメラとしては豪華すぎるテッサータイプのレンズ設計を進めているだけに、撮影レンズにプラスチック製のレンズを使うという冒険はできない。それでも覗くだけのファインダーなら使えるだろうと製造法の研究を始めることにした。

社内にはインジェクション・マシンや成形型の製造技術は導入されていなかったので、東京中の専門メーカーを訪ね歩いたがどこにも見つからない。紹介されて、やっと辿りついたのが洋服のボタンを製造するメーカーであった。

一見、ボタンは綺麗に出来ているようだが、レンズと比べると球面の精度が桁はずれに違う。無理やり頼みこんで作ってもらったものの、ファインダーを覗いてみると直線のはずの柱が曲がって見える。しかも製造コストは高価な光学ガラスを研磨して作ったレンズの更に2倍以上も高くなった。

結局、プラスチック・レンズの採用を諦め、従来から使っている光学ガラス製のレンズに戻すことにした。残念ながら、当時の技術では越すことの出来ない技術の壁となって、挑戦はしたものの完敗した事例である。

30mmF2.8ズイコーレンズと2枚羽根レンズシャッター
レンズは3群4枚構成の高価なテッサータイプが採用された。性能を第一に考え、最良の画質を得るための選択だった。

シャッターには、構成部品が少なく、開閉機構が単純な2枚羽根で構成されたバリオ式レンズシャッターが搭載された。部品を必要最小限で構成することによりコストを抑えることに成功した。

後に発売されるぺンSでは、スペース効率が良く、高速でシャッターが切れる、5枚羽根レンズシャッターへと変化した。

オリンパスの歩み「カメラの歴史」
教育用カリキュラム

趣味でもよい、仕事でもよい、生活する中で何か事を起こそうとするとき思い通りに進まないことが多い。持てる技術が伴わなかったり、思考が技術的に未熟で解決できなかったりするからである。

壁となっている技術的課題があまり簡単に解決したのでは自分らしい出番がなくて詰まらないし、課題が難しすぎては動きが取れなくなる。だからといって、程よい難しさのものは既に完成されていることが多い。

それでも、これから仕事を始めようとする以上どうしても一歩進んだところにターゲットを置くことになる。そんなとき技術の壁に挑戦するのは面白いとも考えられるし、大変だともいえよう。

それらを解決するには自分自身を高める内なる努力が必要だが、一方で、工業製品を作るには多くの人の力を結集する必要がある。外での多くの人達との連係プレーも開発過程で重要な課題となってくるので勉強しなければならない。

商品化計画のない設計部内の研究テーマの名の下で新人教育のためにカメラを設計するようにと命じられた。そこで初めて設計したカメラが後の「オリンパス・ペン」となった。

一人で設計していると、自分の中での技術レベルの向上に向けて勉強するのはもちろんのこと、自分一人では解決できない各種作業の節目にぶつかる。レンズ設計部に行って主旨やレベルを説明しレンズ設計の依頼するのは何時どこに行けばよいのか?。シャッターメーカーとの交渉の仕方は?。ダイキャスト工場、部品工場、組立工場などで加工可能かどうか?。そして、それらの対策も教わらなければならない。

商品化計画のない教育用カリキュラムとはいえ、設計する上での手続きやタイミング、相手方の窓口など組織の中での活動につても勉強することが多かった。

各種の技術の壁

教育されたからといってすぐ実践できるものではない。身についた実力が伴わなければ動きが取れない。「ペン」を6000円で売れるカメラにしろと指示されてもまだコスト計算をするだけの力はない。

コストやスペックに制限されることのない勉強用のカメラとはいえ、レンズに本格的なテッサータイプのDズイコーを採用したので、一つ一つのコスト計算は出来ないとしても、メカニズムは徹底的にコスト低減を計るしかない。

しかし、そこには技術の壁が大きく立ちはだかっていた。設計する毎日がその技術の壁との戦いであった。コマ数計のメカニズムの改良も、その壁を乗り越える方策の1事例である。

「ペン」の試作品が出来上がったところで、その出来映えをみて、急遽、商品化しようと企画会議に提案することになった。

ハーフサイズという変わったカメラであり、これから販売市場での新分野を開拓しようというのだから、当然、激論が交わされた。しかし、何とか商品化に向けての計画案は採用されることになったが、会議の終わり近くになってカメラ工場の工場長から、「そんなオモチャは作れない」と宣言されてしまった。

当時、工場で作っていた一番安いカメラが2万3000円なので、更にその1/4の6000円のカメラを作るとなると工場としては当然の判断だったのであろう。

やむを得ず東京近辺の下請け工場を集めて「ペン」の生産を開始することになったが、最後まで“技術の壁”は厚かった。