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Vol.13:“常識”の功罪

拝啓 設計者より
Vol.13 壁 “常識”の功罪
気軽に使えるホームカメラ
オリンパスペンEE
オリンパス ペンEE
当時、カメラは趣味性が高く専門的な知識が必要だった。誰もが気軽に使えるホームカメラの開発を目指し、ピント調節も露出も自動で行なうことができるペンEEを1961年に発売開始した。難しい操作をしなくても気軽に使えることで、女性の購買数が2パーセントから33パーセントにはね上がった。
オリンパス ペンEE 特別仕様
ペンEEシリーズの外観はグレーのイメージを持つ人も多いが、試作モデルのEE-2ブラックやペンシリーズ累計200万台達成記念に特別に生産されたEE-2ゴールドがある。
“常識”とは

“常識”を辞書広辞苑で調べると、「普通、一般人が持ち、また持っているべき知識。専門的知識でない一般的知識とともに理解力・判断力・思慮分別などを含む」と書かれている。

大辞林では「ある社会で人々の間に広く承認され、当然持っているはずの知識や判断力」とある。

言うなれば、通常、誰もが持っていて、物事を理解したり判断する上での基礎となる知識のことをいう。

生活していると各種の出来事に出くわす。自分一人で処理できる範囲なら問題ないのだが周囲の人を巻き込むような時には注意を払う必要がある。自分の判断ではこれなら良かれと思って対応するのだが、結果として失敗につながり、人に迷惑を掛けて“常識”のない人と言われることが多い。当人は“常識”と思っていても社会に通用しないことがあるからだろう。

一般的にいう“常識”とは、数多くの失敗を繰り返しながら、長い年月をかけて無駄を省き、事をスムースに進めるために自然発生的に身に付けた生活の知恵の一つといえる。

“常識”の活用

友人や隣人との付き合い方にも挨拶から始まって冠婚葬祭に至るまで、相手方に対して礼を失することのないようにしなければならない。お互いに迷惑を掛けない事が最低必要なルールであろうし、それらを判断する基準が“常識”である。

初めて出会った出来事でどのように対処すればよいのか判断のつかない場合でも、 “常識”に従って行動しておけば大過なくスムースに事が運ばれていくことが多い。

生活に欠かせない“常識”はあらゆる分野に存在し、技術の分野にもある。人間は道具を作り、それを活用する唯一の動物だと言われるが、その広い意味での道具を作りにも技術が必要であり、当然、そこには技術の“常識”が存在している。

ペンEEの新機構
サークルアイ式セレン光電池による自動露出
自動露出機能を持つカメラのことをEE(Electric-Eye)カメラと言い、レンズの周りに配置されたサークルアイ式セレン光電池を採用し実現した。
セレン光電池のセレンとは受光素子を指し、光の強弱によって発生する電流が変化する性質を持つ。この性質を利用して露出計メーターの針を動かした。
サークルアイ式セレン光電池
絞りやシャッタースピードが自動になったため、それらをセットするリングがなくなり、フィルムの感度設定のみに簡略化された。
サークルアイ式セレン光電池
その後も技術の“壁”に挑戦を続け、1975年に発売されたOM-2では世界初のTTLダイレクト測光による露出測定を実現した。
オリンパスの歩み「カメラの歴史」
技術分野での“常識”

技術の世界は、常に“無”の状態から目的に向かって、一歩、また一歩と、確証を取りながら技術を積み重ねていくという手間のかかる仕事である。

ゼロからスタートして現状の技術レベルに到達するまでにもかなりの時間を必要とする。しかし、技術の“常識”があれば、そこまでは誰しも持っている知識として既に確証が取れている。それを活用すると途中経過は全て省略できて次へと進められるから、技術分野でのその存在意義は大きい。

カメラでの技術の“常識”について一事例として触れてみよう。

カメラはレンズと精密機械の塊だと認識している。しかし、被写体の明るさを測るとなれば電気の力を借りなければならない。

「オリンパス・ペン」を発売開始した昭和35(1960)年頃は小型の電池や低電圧で作動するICも無く、単独で売られていた大型の電気露出計は「ペン」が5~6台も買えるほど高価な存在であった。受光素子のセレン光電池と、その微弱な電流でも作動する鋭敏な高感度のメーターとで出来ていた。

当時、カメラ界での話題の中心は自動露出のカメラであった。カメラに組み込むのでセレン光電池を大きくするにはスペース的に限界があり、メーターの方を鋭敏な高感度に仕上げる必要がある。

メーターの指針を付けた回転軸は両端を針のように尖らせ、硬くて摩擦抵抗の少ない宝石のサファイアで上下からそっと支えて敏感に作動するように作られていた。それだけに、「ペンEE」を作った頃はメーターの指針には触ってはいけない。力を加えてはならないというのが技術の“常識”であった。

変化する“常識”

一般的には“常識”にのっとって事を進めることが多い。その方が仕事も楽に進められるし、トラブルも少なく世間の理解も得やすくなるからである。

ここで注意しなければならないことは、一見、不変の知識と思われがちな“常識”も永久不変ではないということである。過去の“常識”が現代には通用しないことも多く、世の進歩につれ次第に変化するものもあることを忘れてはならない。

有効に活用してきた“常識”といえども、あまり囚われすぎると過去の技術進歩の過程に引きずられ、発展の方向性が限定されやすくなる。小さな改良は続くが、開発路線を高い次元に変えるような大きい変化は望みにくい。

これまでに存在しなかったEEカメラを新しく作るようなときには、敢えて“常識”という壁に正面から挑戦する必要があった。

露出計用指針の回転角をメカニズムで測定するには、“常識”に反して、触ってはならない指針を上下に押さえるしかない。そこで超薄バネで指針を作り上下に曲げても針のような尖った回転軸には力が伝わり難くした。指針の先端部のみを厚くして、そこをメカニズムで押さえ指針の回転角を測定することにしたのである。何度も何度も失敗を繰り返しながら、針のように尖った回転軸が壊れないように確証が取れるまで実験を繰り返した。

「ペンEE」は、当時、技術の“常識”破りのメカニズムで作られていたので各部署から憂慮する声があがったが、その後、各社のEEカメラの主流メカニズムへと発展して、技術の“常識”という壁を塗り替えることになった。

“常識”には不変なものと時代と共に変化するものがあるが、進歩発展に向け、敢えて変化させなければならないことがある。