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拝啓 設計者より
Vol.16 手強い“常識という名の壁”
“見る目の違い”
オリンパスペン EE

新規提案の「ペンEE」は果たしてオモチャなのか、それとも最先端を突っ走る全自動カメラなのか。機能性能を優先する男性ユーザーの見る目と、使い勝手やスタイルを重視する女性の目線では評価も大きく異なり、意見は二つに割れて一向に噛み合わない。

カメラを企画するとき、当然、購買層の97%も占めている男性カメラ購入者をターゲットにするのが常識である。その中で如何にしのぎを削りあうかが誰しも考えるごく普通の発想といえよう。

それなのに、何故、僅か2~3%しかない女性層の方に焦点を合わせるのか?売れてもいない女性用という小さな市場向けの企画は、あまりにも無謀すぎるとの判断が大勢を占めていた。

日進月歩の技術的発展が続き、新機能追求という高級化指向の強い環境下では、新機能の少ない女性用や初心者用カメラについての提案は多勢に無勢で意気も上がらない。

それにもかかわらず、敢えて、ボタンを押すだけで写る、一見、機能の単純な「ペンEE 」を提案したのは、これから更に、積極的にカメラの普及を図らなければならないという責務と、それにはこのカメラが必要だとの判断があったからである。

当時のカメラ事情

当時、初心者がシャッターボタンを押しただけでは写らなかった。ピンボケになったり暗い写真になったりして、まともな写真はなかなか写せない時代であった。

撮影を難しくしている技術的要因の一つは、絞りやシャッターを被写体の明るさに合わせて適切に調節しなければならないからである。それにはフィルム感度やシャッター、レンズ等かなり写真の知識が必要となる。しかし、露出計や自動露出用EE機構など当時の技術力を持ち込むことによって何とか解決できる可能性がある。

やはり、最大の普及阻害要因はピンボケ写真であった。それを防ぐにはオートフォーカスを組み込まなければならないが、電子技術が未発達でまだ商品化はできない。

当時の技術力で可能性のあるピンボケ防止の方法としては、“撮影レンズの焦点距離を短くするとピンボケ量も減る”というレンズの性質を逆用することであった。それでピンボケを防げばよいという大胆な発想である。

ハーフサイズの狙い
オリンパスペン EES

ハーフサイズを日本で初めて採択するという冒険に出た理由は三つあった。
1、ポケットに入れられるほど小型になること。
2、12枚撮りフィルムで24枚写せるので、高価なカラーフイルム1枚あたりの単価が半値になること。
3、ピンボケ写真が少ないことである。

撮影画面の小さいハーフサイズではレンズの焦点距離が短くなりピンボケにもなりにくい。

この3番目のハーフサイズならではの特長を最大限に活用し、ピントを3mに固定しておけば1mから∞までピンボケしない。自動的に、オートフォーカスを組み込んだのと同じ効果が得られる。

これにEE機構を新規開発して組み込めば、シャッターを押すだけで写る全自動カメラが出来上がる。

コストも安く使い方も簡単で、女性を含めた初心者に最適なカメラになると考えた。そこまで読んだ上で、あえてハーフサイズを採択するという冒険に出たのであった。

35mm判カメラではレンズの焦点距離が長くなりすぐピンボケ写真になるので、この発想の全自動カメラは作れない。

ハーフサイズなら画面サイズが小さく必然的に焦点距離も短くなり、ピンボケも少ない。そのハーフサイズでしか作ることの出来ない全自動カメラを狙って誕生したのが、この“ペンEE”なのであった。

“常識という名の壁”との戦い

「ペン」を拡販するにも、ハーフサイズという新市場を開拓するためにもこの「ペンEE」は必要なカメラである。これからユーザー層の裾野を広げる上で、重要な役割を担った基本的カメラになるのは必定だと精一杯熱弁を奮った。

ただ単に市場調査のデーターに従い、男性好みの高級機志向に傾く35mmカメラの後を追うのではない。カメラの未来像を描き、これまでの“常識”に囚われずに、時代を超えた“新しい発想”が新市場開拓の鍵となるのだと力説した。

しかし、女性購買層が数パーセントしかいない現状では、耳を傾けてくれる企画審議委員は一人もいない。従来の実績によって培われてきた“常識という名の壁”は思いのほか厚く、押せども引けども揺るぎだにしない。まさに四面楚歌の状態であった。