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Vol.17:百聞は一見に如かず

拝啓 設計者より
Vol.17 百聞は一見に如かず
姿かたちの見えない“常識”の圧力
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当時の日本のカメラは先進国ドイツの後を追った発展途上の真最中であり、高級機志向が強く高価で精密感に溢れていた。まさに男性の憧憬の的となる存在で、購買層のほとんどが男性で占められていた。一方、女性達は、いかつい恰好で使い方の難しいカメラに全く興味を示さなかった。

そんな時代環境なのに、無謀にも“世の中の半分は女性である。それを放って置く手はない”と考えた。女性にとって写真は写されるものと決め込んでいたこれまでのジンクスに挑戦しようという発想である。

見向きもしない女性達をこれからカメラの新規ユーザー層として迎えるには、どうしても女性向けのカメラが必要なのだと企画会議で粘り強く理解を求めていった。

しかし、購入するのは男性であって、現実にはカメラを全く買わない女性層を敢えて追い求める夢物語に聞こえたらしく、言えば言うほど空念仏を唱えているようであった。

当然のことながら、販売実績で購買層の97%も占めている男性ユーザーを前提とした、企画審議委員の “常識”という固定概念を覆すまでには至らなかった。

こうなっては、もう理屈の通る世界ではない事をつくづくと思い知らされた。

君子の豹変

企画会議の上座に座っていた営業本部長は提案説明を聞いているのか聞いていないのか、黙ったまま、徹夜で作り上げた「ペンEE」の試作品をためつすがめつ眺めたり、シャッターを切ったりしていた。突然、 「おい米谷、これで行こう!」 と切り出した。

この発言を聞いて自分の耳を疑った。昨日まであれほど頑強に反対していた本部長が君子豹変したのである。しかも、 「君は定価8000円の提案だが、2000円上げて1万円で売り出すぞ!」 この思いもかけない発言に気負いされてか座は静まり返った。

これまで、高級機志向が強くスペックアップを要求する環境下では、カメラの使い方を優しくするようなメカニズムの簡略化こそが全自動カメラへの道に繋がるのだといくら唱えても、耳で聞いただけでは理解されなかった。しかし、実物を手で触り、カメラを動かしてみて、初めて開発意図のその真意を判ってもらえたのだと思う。 “百聞は一見に如かず”と言われるが、先ずは“耳で聞くより手で触れよ”である。

それにしても、昨日までとは正反対の意見に豹変することは上司としてなかなか出来るものではない。その“常識”を越えた市場洞察力と決断力に敬意を表しながら、商品化に向けて急速に動き出した。

そうした決定の下される背後には、市場における「オリンパス・ペン」の人気や販売実績が強い後押しとなって、“姿かたちの見えない常識”破りの発案にも耳を傾けてくれたのかもしれない。

企画会議の余談
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企画会議から3年経った昭和38(1963)年12月14日、「オリンパス・ペン」の100万台突破記念祝賀パーティーが東京の帝国ホテルで開かれた。

新製品発表の場ではなく、売れ行きの良さに対するお礼の意味での大々的な催しは初めてのことである。それまで「オリンパス・ワイド」など大ヒット商品でも全生産台数が10万台前後だっただけに、「ペン」カメラシリーズには大変な力の入れようであった。

その賑わいの中、500人ほどの列席者の間をぬって営業本部長がやって来た。 「やあ、100万台突破おめでとう。それにしても、人気のペンEEは8000円で設計したのだから、原価を差し引くと、君は1台につき数百円稼いだだけだよ。後の2000円は俺が稼いだ!」 と、冗談交じりに笑いながら言われたことを懐かしく思い出す。