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Vol.18:潜在需要の掘り起こし

拝啓 設計者より
Vol.18 潜在需要の掘り起こし
手強い“常識”
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大き過ぎたり狙いの機能を果たさないといった技術的な障壁は、メカニズムの動きなどその形が見えるので理解も早いし対策案の効果や是非も見極められる。

一方、心の中の “常識”に起因した障壁の場合は、外から見ることが出来ないだけに話はかなり複雑になってくる。しかも、それが一個人にとどまらず不特定多数のユーザーの心の内の“壁”となると全く掴みどころがなくなる。

“カメラは男性の物”という“常識”もその一つで、販売実績に裏付けされているだけに形が見えなくても手強い“壁”である。

それに挑戦しようと、女性向けカメラについて議論を仕掛けても反論こそすれ、そこから答えは見出せない。結局、発売してみなければその提案の是非は判らないのが実情であった。

次なる“壁”

初心者用カメラとか、女性用カメラにとっては難関の企画会議も無事に通過し、幸いにも「ペンEE」の商品化が決定された。

何とか見えない“常識の壁”を乗り越えたものの、その先には、更に次なる壁が立ちはだかっていた。

現実には何故か女性はカメラを購入しない。男性好みのいかつい格好をしているからか、操作が複雑だからなのかその真意はよく分からない。ただ、僅か2%という販売実績から見る限り需要が無いとみるのが妥当な判断なのであろう。

しかし、本当に需要が無いのであろうか?。花が咲いたとか子供が笑ったとか、周りの出来事を記録したい気持ちは男女を問わず共通に有るはずだと判断した。これから開発を進めるにあたって、女性の心のうちに潜在するで有るはずの需要や要望を引き出さなければならない。

魅力的なカメラの新製品を出しても見向きもしない女性たちをどうすれば惹きつけられるのか、これが重要な課題の壁となって圧し掛かる。

とにかく自分が女性になったつもりで考え付くままに項目を拾ってみた。EEカメラの高級化志向が強い市場環境下ではあるが、それに逆行して、まずはボタンを押すだけで写るという簡単操作に徹し、更に低価格に抑え込むことに注力していった。

それらは設計段階で新アイディアを求められて苦労するのだが、外から見ると単なるスペック・ダウンに見えるところから企画会議でもめる原因にもなり厚い壁となった。

「ペンEE」の市場評価
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それから2年の歳月が経っての「ペンEE」発売であったが、女性向けカメラは売れないという関係者の意に反し、市場反応は速く初期出荷は“即”完売となった。

“壁”の裏側ともいえる“常識の壁”を越えた世界での、女性層の潜在需要に支えられて人気を呼んだのだと思う。

企画会議での評価が割れて月産5000台からスタートしたのだが、販売部門から工場に向けての増産指示が飛び交い、設備の増強に次ぐ増強で月産7万台にまで引き上げられた。

結果的に「ペンEE」は「EES」を含め1200万台も売れ、作っても作っても品不足という当時としては桁外れの大ヒットとなった。

ユーザー層のうち、女性の占める割合も僅かな2.7%から一挙に10倍以上の33%へと跳ね上がった。

商品の解説記事などでは、スペックの比較や使い勝手、外観について詳しく解説されている。しかし、販売台数の推移や後続機種の有無など、市場がどのように反応しどう評価したか、カメラ界にどのように影響を及ぼしたかについて触れられることは稀である。

一見、オモチャと見間違うほど操作機能を単純化した「ペンEE」は専門家の解説記事では評価が低かった。それでも、初めての本格的な女性向けカメラの出現によって潜在需要の掘り起こしたのか、市場でのユーザーが下した評価は非常に高く、ハーフサイズ・ブームの牽引車的存在となった。

“革新”への道

技術の進歩につれて銀塩だとかデジタルだとか使うテクノロジーはこれからも次々と変化して行くであろう。しかしどのように変わろうとも、革新的な次世代機種への展開となれば常に形の見えない“常識という名の壁”に阻まれることが多い。

評価する人々の心の底に巣くう見えない敵との戦いには、困難を極めるのだと心して立ち向かわなければならない。そして、それを乗り越えて初めて“革新”へと繋がるのである。

結果的に「ペンEE」は「EES」を含め1200万台も売れ、作っても作っても品不足という当時としては桁外れの大ヒットとなった。

ユーザーの期待する“革新”こそが発展の要素であり、その度合いが大きいほど各社が一斉に追随してきてブームとなっていく。

これからも進取の気性を宗とするオリンパスから世界市場を揺さぶるような“革新”を発信し続け、新しいブームを引き起こすことを、社内外を問わずオリンパス・ファンは強く望んでいると思う。