第3回 オリンパスプラザ FOCUS展

オリンパスプラザ FOCUS展とは

オリンパスのカメラを使って表現力、創造性に富んだ作品を生み出すフォトグラファーに、発表の場を提供する写真展です。オリンパスプロ会員(OGPS会員)からの推薦により、年間2名をプロサロンにて選出いたします。

第3回 FOCUS展 佐藤素子写真展「La Resonancia」

響きあう
音・光・色
生まれた瞬間の現場に
在る音 重なる音
そして無の音
それは互いを区別するかのように見えて
同時に互いを繋いでいく
私は何を描くのか 何を描かぬのか
私は何者として捉えられているのか
私が何者かであるのではなく

写真展のご案内

  • 会場:オリンパスプラザ東京 クリエイティブウォール
    開催日時:2019年1月28日(月)~ 2月6日(水)
    11:00 - 19:00
    最終日は15:00まで

出展者インタビュー

1.写真を始めたきっかけと、今に至るまでの経緯を教えてください。
 中学・高校・大学で美術を学びました。就職してからも、両親が倒れ介護を始めるまでは染織や陶芸、登山やバックパックでの海外旅行に親しんできました。14年間の介護を終えた時はぽっかりと穴が空いたような気持ちでした。しばらくして旅の共になるかなとカメラを買いましたが、旅に出ることもなくカメラは眠ったままになっていました。
 ところがある朝、ゴミを出す時に一株の曼珠沙華に心が惹かれ、カメラをひっぱり出してきてその花を撮りました。翌朝も枯れ始めたその花を撮ると、もっと撮りたいという気持ちが湧き、翌日には初めて写真を撮るためにカメラを持って出かけ、旬が過ぎた曼珠沙華を夢中になって撮っていました。これをきっかけに他の植物も撮っていくようになり、私の写真活動が始まりました。
 写真はその瞬間そこにいないと撮れません。私は自然風景を撮影していますが、撮影を行うことでその瞬間に出逢うために被写体のところへ赴き、被写体と繋がるように感じます。この感覚に魅せられ、歩けなくなるまでずっと撮り続けていきたいと思っています。しかし、人物や街など人のいるところは今でもカメラを出すのが恥ずかしくてなかなか写真が撮れません。

2.作品を撮るとき、何を大切にしていますか?
 撮らずに自分自身の目で見ることだけに集中する時もあります。撮らずに見たことは深く心に残ります。私に写真の技術があるとは思っていません。唯一あるのは私の視点です。絵画は時間をかけて土台を作り柱を立てたり、壁や床を張ったりしていく建築に似ていますが、写真は陶芸に似ていると考えます。陶芸家濱田庄司が、人から「なぜもっと時間をかけて釉薬を掛けないのですか。」と尋ねられて、彼は「釉掛けの数秒間には自分の人生の70年が詰まっているのだ。」と答えたそうです。彼の答えは、シャッターを切る瞬間と似ていると思いました。私には私の人生の視点があります。そして誰にでも自分の人生の視点があります。ですから、私は撮影にあたり、特別なことはなにもしていないように感じています。
 写真を撮る時にも私は自然の声に耳を傾けるように心がけています。今回の作品では、自分から作品としてどう表現しようか画策するよりも、被写体を謙虚に受け止めることが特に大切でした。そして私が好んで撮るのは、例えばものすごく魅力的なソリストがいてオーケストラが盛り上げるような大きな音楽ではなく、室内楽のように互いの響きを感じながら小さな室内で演奏する音楽です。私はその音楽をよりよく聴くにはどこに立てばいいのかを考えるのです。

3.「La Resonancia」というタイトルに込められた想い、今回の展示のコンセプトは?
 「La Resonancia」はスペイン語で『共鳴』を意味しますが、先入観を持たずに作品を見ていただきたかったので日本語では書きませんでした。何だろうと興味を持たれれば、ちらっと解説を見てもらってもいいし、言葉など無視してもいいのです。人間が言語をもつより前に視覚伝達はあったとされますから。共鳴というタイトルに私自身はいくつもの思いを重ねて忍ばせていますが、それを見つけていただく必要はないと思っています。ですが、せっかくの機会ですので、こちらでいくつか述べさせていただきます。
 一つは色の響きです。この作品以前に、別のコンセプトでしばらくモノクロの作品に取り組んでいました。今回の作品では色の響きが重要でした。自然の色には全ての色が含まれています。そのうえ固有色だけでなく互いの色が反射したり重なったりして響きあって私たちの目に届きます。これは色彩のことでもあり、私たちの生き方でもあるように私には思えます。
 二つめは見るという、心の響きです。それは写真を撮る時に見るということ、作品を見ることのどちらにも当てはまります。6年生の最後の授業で『二人のパブロ』という題で鑑賞を行い、パブロ・ピカソの『ゲルニカ』とパブロ・カザルスの『鳥の歌』を扱いました。その時ある子が「ピカソは優しい。ゲルニカの苦しみをパリ万博で多くの人に伝えようとしたから。」と言いました。ピカソを優しいと感じたのは、彼自身の優しさが共鳴したからではないでしょうか。
 最後に、地球自身と共鳴すること。この先はあまりにも私の個人的な願いなので解説には書きませんでした。私が子供の頃からの願いで、多くの人が地球と共鳴すれば世界に平和が訪れる。私はそう信じています。

4.展示を経て気づいたこと、感じたことはありますか?
 展示させていただいてから気がついたことがたくさんありました。例えば、自分は空を撮らないのだなあと展示してから気がつきました。
 また、多くのお客様からいただいた言葉が、テクスチュアと光でした。何人ものお客様がある作品を横から覗いてらっしゃるのでなぜかを伺ったところ、デコボコしているように見えて思わず覗き込んでしまったそうです。油絵のようなテクスチュアがあるように見えるのだとか。光が独特だというご感想もたくさんの方からいただくので、理由を考えたところ、学生の時にアトリエでは北向きの窓に白いカーテンを引いてディフューズされた光でモデルさんや静物を描いていたことが思い当たりました。外で写真を撮る時、私は晴れよりも曇りや雨や霧が好きなのですが、アトリエで描いていた時の光を無意識に探していたのかも知れません。

5.今後取り組みたいテーマなどはありますか?写真の領域でも、それ以外でもなにかあれば教えてください。
 この機会をくださった斎藤巧一郎先生はじめOLYMPUSの皆様、そしてご来場くださったお客様に心より感謝申し上げます。皆様から今回の作品をさらに追求していく力をいただきました。そして、その力をフォトルシーダというポートランドでのポートフォリオレビューに持っていけるよう、これからの時間を使っていきたいと思います。
 また、写真とは別にやりたいことがあります。母は香川県出身で、亡くなる前にお遍路をしたいと言っておりました。昨年は一番から十九番まで歩いたので、その続きを少しずつ歩き通したいと思います。これは写真のためでなく、自分の人生の一部としてすることなので、カメラを持たずに歩きたいと思います。そしてその後どうするのかは、その時の自分が決めることなのでまだわかりません。

出展者プロファイル

佐藤 素子(さとう もとこ) 中野区に、植物画家を父として生まれる。小学生のときに伝統美術に魅せられ美術の道に進み、長い間絵を学び、武蔵野美術大学を卒業後は美術教育に携わる。
14年間の両親の介護生活を終えたときに、OLYMPUSデジタルカメラを購入、斎藤巧一郎氏によるPhoto Artistに参加、写真による作品制作を始める。
絵画・彫刻・伝統美術の3つを表現のベースとする。伝統美術の経験は触覚に呼びかけ、見えるものと見えないものとの対話に彫刻家のように耳を傾け、絵画的な光で表現する。自然を通じて声なき声に寄り添い、それをささやきに変えていく。
【入賞歴】
2018 TCC Photo Match 優勝(team match)
2015 東川町国際写真祭 写真インディペンデンス展 入賞
【個展】
2018 Les Cadeaux (Gallery Jarona)
【主なグループ展】
2019 ゴミゼロ倶楽部写真展(新宿エコギャラリー)
2018 Making of a Beautifle Bridge (Subway Gallery)
2017 Emerging Visions of Japan (Subway Gallery)
2016 Regard Intense by 16 (AL.Gallery)
【写真集】
2018 Dialogue Avec L’invisible
2018 Lachrimae Antiquae
2016 La Follia

推薦者コメント

紙を選び、丁寧なプリント作業を経て佐藤素子さんの作品が出来上がる。
今どきの人がスマホで見せ合う写真とは違い、紙(又は佐藤さん好みの支持体)の上にのせて出来上がっている。撮影し、作者本人の手から形となっていく。
子供の頃から美術作品制作のなかに居た佐藤さんには、土をこね陶芸作品を手から生み出し、糸を染め布を織り工芸作品を作ることに近い感覚のことだろう。
そんな佐藤さんの写真は、記録性が鍵となる写真とは異なる。
いつものギャラリーにいつもとは違う風が吹くことも良いし、そもそも私が佐藤さんの作品を見てみたい。それは今後もずっと。
多くの方々と共に佐藤素子さんの作品に期待をしている。
写真家 斎藤 巧一郎

斎藤 巧一郎(さいとう こういちろう) 1968年鹿児島県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。
現在、広告写真を中心に、雑誌、新聞等で撮影に携わる。
写真専門学校講師、写真セミナーなど写真文化を広げる活動を精力的に行っている。

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