写真家・福田健太郎がOLYMPUS OM-D E-M1 Mark IIIで紡ぐ
森の5つの物語 <後編>

PART V
OM-D E-M1 Mark IIIが誘う、闇の行方

長く自然の中に佇む時、生命のささやきが耳に届く。
それこそが、自分が森に求めているもの。
美しい風景でなくていい。
自分自身もまた自然であるという事実、
自然に生かされる命であるという実感を探し、旅は続く。

暗がりに潜むわずかな生命のサインも見逃さない
ハイレゾショットに託す細やかな描写力

小型のボディに驚くべき細密な描写力を秘めたOM-D E-M1 Mark III。手持ちで5000万画素相当、三脚なら8000万画素相当の解像度を誇るハイレゾショットは、瞬時に8コマ(手持ちは16コマ)分の情報を取り込み、一枚の画像として生成する。強力なボディ内手ぶれ補正機能と合わせれば、生命が発するわずかなサインまですくい取ることができる。旅の気軽な相棒は、いつしか私の眼となり心を表す欠かせない存在となっていた。

自然の美しさも厳しさもハイレゾショットでありのままに

美しいリズムを描いて林立するシラカバに不穏さを感じたのは、自然の猛威によって倒れた仲間の姿があったから。昼間の空は明るく、手前には穏やかな川が流れていたが、あえて入れずに自然の厳しさが伝わるよう木立のみでの画面構成を試みた。
川の対岸の風景をぐぐっと引き寄せるため、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROのテレ端を使用。35ミリ判換算200mm域で切り取り、三脚ハイレゾショットでシラカバの葉の一枚一枚までしっかりと描き出した。

鬱蒼とした森で出会ったシカに、ぶれずに向き合う

森の中を彷徨していると、ふとこちらを見ている生きものの気配がある。あたりを観察すると、やはり。鬱蒼とした木立に紛れるように立派な角を持つ若いオスのシカがこちらをうかがっている。M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROで静かにシカと向き合う。
絞り開放、1/320秒、ISO400。ファインダーで値を確認して、手ぶれに強いので感度をあまり上げなくても大丈夫だろうとの確信が持てた。なるべく低い感度で、毛の一本一本、こまやかなディテールを再現することにこだわった。木と木の狭い隙間からAFで瞳にピントを合わせることができた。動物撮影用のカスタム設定に素早くアクセスし、数秒間、静音モードで音を立てることなく無言で向き合った。

小さな自然の輪廻をマクロレンズで隅々まで写す

森の中でふと足下を見ると、シダの葉が枯れて丸まっている。乾いた葉っぱの質感とその造形の不思議。今の今まで気づいていなかった小さな自然の風景が、急に目に入るようになるのはよくあることだ。夏には青々と茂っていただろうシダが季節の巡りによって枯れ、やがて土へと還ろうとする命の行方が見え、無性に撮りたいと思った。
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroで細部までじっくり観察しながら撮影するには、やはり三脚を据えたくなる。ハイレゾショットでシャッターを切ると、アップにしても一枚一枚の葉脈が惚れぼれするほど解像している。センサーサイズの小ささは微塵も感じさせない。

宵闇に身をくねらせる木々を三脚ハイレゾショットでしっかり解像させる

湖を訪ねると、紅葉はほぼ終わりかけていた。半月前は錦秋に染まっていたのだろうが、時間と共に葉をすっかり落とし、湖岸は静まり返っている。M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROで対岸をのぞくと、裸木が思い思いに枝を広げ、何かを訴えている。肉眼では見えなかった、存在を主張しているかのような姿が気になった。
夕暮れの頃で、太陽もすっかり沈んでいるが、ホワイトバランスは太陽光を選択。青みを帯びた画面の中に、葉を落としたダケカンバの白い木肌を浮かび上がらせる。ファインダーの中に水準器を映し出して、傾きがないように確認した。三脚ハイレゾショットで細かい枝の一本一本までしっかり解像させ、600mm相当のレンズで対岸の離れた木立を引き寄せた。超望遠で風景のごくごく一部分を抽出し、風景撮影の定番とは一線を画す世界をのぞくことができた。

暗闇での慣れない操作を手助けする星空AF

木が倒れてぽっかりと空いた樹冠からふと空を見上げると、天の川が真一文字に夜空を通過して広がっていた。きわめて広い範囲を写し出す魚眼レンズ、M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO。月明かりもなかったためISO6400まで感度を上げ、絞りは開放で20秒露光。肉眼では確認できない、さらに星の数を増やした満天の星空が写った。
高感度の画質も許容範囲で、デリケートな星空を伝えるのに不都合はない。ノイズの抑えられた星空が広がっている。
暗闇の中でのカメラ操作は、ピント合わせが難しい。星空撮影に不慣れな人でもカメラ側で行なってくれる星空AFは便利だ。LVブーストをオンにしてファインダーの中を強制的に明るくし、暗闇の世界を浮き上がらせてから星空にピントを合わせる。

光が動けば、心も動く。その瞬間をためらいなく撮れるのがOM-D E-M1 Mark III

PART IIIと同じ場面。シカを見送り、この場所での撮影を終えたと思った時、雲間からの光がめまぐるしく変化し、森の奥だけにスポットライトのように差し込んだ。
数百メートルの奥行きのある風景を、超望遠レンズの圧縮効果で平面的に見せつつ、手前を大きくぼかすことで日の当たる森の奥だけを際立たせた。
同じ場面をもう一度撮ろうという気持ちにさせてくれるのも、小型軽量だからこそ。心が動いた瞬間にいつでもカメラを向けられる。心地よい満足感を覚え、私は次の出会いを求めてあてどなく歩き出した。