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小惑星探査機「はやぶさ」の帰還

星空 小惑星探査機「はやぶさ」の帰還

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飯島 裕(いいじま ゆたか)

1958年埼玉県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒。1969年のアポロ11号月面着陸の際、はじめて天体望遠鏡で月を見て天文の面白さにはまったアポロ世代。1972年のジャコビニ流星群の大出現が予想されたとき、カメラを借りて初めて天体写真を撮影。大学卒業後は広告制作会社のカメラマンに。ハレー彗星が回帰した1986年からフリーの写真家として独立。

現在はおもに広告、雑誌、書籍などの写真を撮影。科学関係雑誌や天文情報誌などには執筆も行い、国立天文台の広報関係の撮影も担当している。2003年より月刊天文誌「星ナビ」(アストロアーツ刊)に、モノクロ銀塩フィルムによる星景写真作品「銀ノ星」を連載中。写真展多数。

小惑星探査機「はやぶさ」の帰還

「はやぶさ」の帰還


「サウスオーストラリアの道」
「はやぶさ」が帰還したサウスオーストラリアの砂漠は、360°真っ平らな地平線。


「天の川」
オーストラリアでは、我々の銀河系中心方向を天頂に仰ぎ見ることが出来る。まったく人工の光のない砂漠では天の川がいちばん明るい光源。その光で地面に人の影が出来るほどだ。

2010年6月13日、サウスオーストラリアの砂漠。現地時刻23時22分。
西の空にぽつんと現れた2つの光点はみるみるうちに輝きを増し、火の粉をまき散らしながらこちらに向かってくる。
7年に及ぶ小惑星イトカワへの旅を終え地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」が大気圏に再突入してきたのだ。
先行する光は再突入3時間前に本体から放出されたサンプル回収カプセルで、小惑星イトカワの表面の物質が入っている可能性がある。そして大きい方の光はカプセルを無事に持ち帰ることに成功した探査機「はやぶさ」の本体だ。


「はやぶさ撮影風景」
「はやぶさ」の大気圏再突入を撮影する様子。

長い旅の最後に神々しく輝く流星となった「はやぶさ」は、事前に予想されたどおりの時刻・方向に現れ、途中爆発的にまばゆく発光し、南十字星近くの天の川を横切って小マゼラン星雲の近くで消滅した。地上に降下したカプセルは、ほぼ予定通りの地点に着地したという。 数々の致命的なトラブルをかかえていたとは思えない精密な帰還に、これまで必死の運用を続けてきたエンジニアの魂の輝きを見る思いがした。

OLYMPUS一眼カメラで撮る、帰ってきた「はやぶさ」の輝き


「はやぶさの大気圏再突入」
「はやぶさ」再突入1分前にシャッターを開けBULBで4分露出。「はやぶさ」は西の空(画面右)から現れ、およそ40秒で南東(画面左)の空に消えた。

私が「はやぶさ」の帰還を撮影するために用意したカメラは2台のOLYMPUSカメラ。
1台は火球となる「はやぶさ」の全経路を撮影するために超広角ズームレンズを装着し、星の日周運動を追尾する赤道儀に載せた。
もう1台は大気圏再突入でバラバラに飛び散る様子をとらえるために高倍率ズームレンズを装着し、手持ちで追いかけ秒間5コマで連写することにした。

あらかじめ再突入の時刻と経路は予想されていたが、カプセルと本体はどれくらいの間隔で飛来するのか、また、本体の再突入はどれくらいの明るさになるのかまったく予想がつかず、なかばヤマカンで露出を決めざるを得なかった。

まったく初めての経験で、おそらく今後もそうは無いだろう撮影に、これまでにない緊張を感じた。撮影後モニターにちゃんと再生された「はやぶさ」最期の姿を見てホッとしたが、同時に科学技術のすばらしさを感じ、これまで撮影してきたどんな天文現象とも違う感慨で胸がいっぱいになった。

大気圏再突入時の「はやぶさ」ギャラリー

秒速12kmの猛スピードで再突入した「はやぶさ」の本体は、空気の抵抗によって光り輝きバラバラになって蒸発した。 そして今は地球の大気の一部になっている。破片がたなびく本体前方(左下)の小さな光点が、耐熱シールドに守られたサンプル回収カプセルだ。ISO3200、毎秒5コマで連写したものから抜粋。

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