写真撮影レポート「OM-D E-M1Xで星空を撮る」

オリンパスの新しいプロフェッショナルモデル、OM-D E-M1Xが発売になりました。機動力のあるハイスピードモデルとしてスポーツや鉄道、野鳥などの動体撮影能力や、手持ちハイレゾ撮影などが大いに注目を集めていますが、じつは星空撮影への適性も、かなり実力アップしているのです。この冬、発売に先駆けて星空の下へ持ち出す機会に恵まれましたので、E-M1XとM.ZUIKO DIGITALレンズでの星空撮影についてレポートします。(写真家 飯島 裕)

2018年12月、ふたご座流星群

最初は3大流星群のひとつ「ふたご座流星群」に出動しました。この流星群は一年を通して最も活発な出現が見られる流星群です。2018年のピークは12月14〜15日の夜でした。流星群はほぼ一晩じゅう見られますが、この夜は23時頃に月が沈むという条件でした。
撮影に向かったのは南アルプスの甲斐駒ヶ岳を正面に望む高原です。E-M1Xには17mm F1.2 PROレンズを装着し、三脚に固定して甲斐駒ケ岳上空に流れる流星を撮影することにします。流星はほんの一瞬の現象なので、口径の大きなレンズが有利です。M.ZUIKOのレンズはF1.2の絞り開放から周辺の星像が乱れることがないので、迷わずに絞り開放での撮影です。カメラはもちろん高感度に。

流星の写った一コマ。右上の明るい星はおおいぬ座のシリウスです。

12月14日23時42分から15日04時37分までの約5時間で1691コマを連続撮影、写った125個の流星を左の一コマに合成しました。

流星は双子座の方向から流れるように見えますが、この写真はカメラを固定しているので、日周運動でふたご座が西(画面の右)に移動するにつれて流星の流れる角度が時計回りに変わっていきます。だから右に傾いている流星ほど後から出現したことになります。また、流星はほぼ同じ高度に現れるので、画面下方の流星ほど遠くで流れているのです。
乱れ飛ぶ流星の輝きに、宇宙空間にいる自分を感じます。

この夜に初めてE-M1Xを星空撮影に持ち出したわけですが、カメラに記録された温度は撮影開始時のマイナス4.4度から、最終的にはマイナス8.2度まで下がっていました。
低温の環境のなか長時間にわたる連続撮影でしたが、縦位置グリップに装填された2個で余裕の撮影でした。もしも途中で電池交換が必要になっても、カメラを三脚から外さずにバッテリホルダーが取り出せるので構図がズレることはなく安心できます。また、E-M1Xは縦位置グリップ一体で従来機に比べ操作部に余裕があるので、手袋をしていても誤操作することがほとんど無いのも嬉しいことです。特に厚い手袋では十字ボタンとOKボタンの操作が難しかったですが、ほとんど同じに使えるジョイスティックタイプのマルチセレクターがとても操作がしやすくなっています。

東京都心でライブコンポジット星景

オリンパスの「ライブコンポジット」は、カメラに内蔵された比較明合成。星がほとんど見えない明るい都市の夜空でも、星の光跡を伸ばすことで、その存在感を印象づけることができるようになります。
双眼鏡で見るとわかりますが、大気の透明度の良い冬は、都心でも意外なほどたくさんの星が見えています。もちろん写真にも写りますが、小さな点では明るい空に埋もれてしまって目立ちません。そこでライブコンポジット撮影の出番です。

ライブコンポジットのような比較明合成は、原理的にカメラの感度を高くして一コマの露出時間が短くなるほど星の光跡を多く写せるようになります。
連続撮影をしたたくさんのコマをPCソフトで合成してもいいのですが、多くの場合、星の光跡がきれいに繋がらず、破線状になってしまいます。ライブコンポジットでは電子シャッターで露出の間隔がほぼゼロなので、きれいな一本の光跡にできるところが魅力です。そしてモニターで星の光跡が伸びていくのがリアルタイムで確認できるため、写真の仕上がり状態がつかみやすく、自分のイメージに合った光跡の長さで露出終了できます。この撮影現場での確実性がライブコンポジットのいいところです。

東京都心、大手町での撮影です。画面中央付近の明るい星はおおいぬ座のシリウスです。

1時間強のライブコンポジット撮影です。オリオン座と冬の大三角が首都高の上空をゆっくり巡っていきます。にぎやかなオリオン座の光跡が程よく伸びたところで露出を終了しました。

高さのある高架道路の間にオリオン座が見えます。強烈な照明の下でも星空の撮影ができるのがライブコンポジット。7-14mm F2.8 PROレンズは、光源が多数あるなかでもいやなゴーストの出ない優秀な超広角大口径ズームですね。

E-M1Xのライブコンポジットは、従来機と基本的に同じです。しかし、長時間の光跡をブラすことなくきれいにつなげるのに、縦位置グリップ一体型の剛性の高いボディーが与えてくれる信頼感は格別です。安心して最長3時間のライブコンポジット撮影が行えました。
人工の光に満ちた都心でも、ライブコンポジット撮影で多くの星々が輝いていることを再確認する思いです。

進化したライブビューブースト2

富士五湖は、富士山を入れた星景写真で人気の撮影スポットです。2018年は西湖の湖畔で星景写真の撮り納めとなりました。カメラで記録された気温はマイナス5度ほどになっていますが、低温時には気温よりも高めに記録されることがあるようです。これは撮影時のカメラの温度と理解するのがいいようです。

西湖の湖畔で星空撮影です。ここでの撮影中に、幾人かの人が星空撮影にやって来ました。お互いの顔もよく見えませんが、双眼鏡で星空を眺めながらの会話は楽しいものでした。

このような暗い場所の星空撮影では「ライブビューブースト2」がたいへん有効です。この機能はE-M5 Mark IIから搭載されるようになりました。ライブビューの感度を非常に高くしフレームレートを下げて暗い星空までよく見えるようにしたものです。
星座の星はもちろん、F2.8のレンズでも淡い天の川まで見えるようになります。山の稜線や星空を背景にした木のシルエットまでモニターで見ることができるライブビューブースト2は、自由な角度に向けることができるバリアングルモニターとともに、最も星空撮影のしやすいカメラを実現していると思います。この機能は、星空撮影の最大の武器と言えるかもしれません。

あまり知られていませんが、E-M1Xではこのライブビューブースト2が大きく進化しています。これまでの機種では、フレームレートが遅いためにカメラ操作の反応が鈍くて少しイライラすることもありました。映像の反応も同様に遅いので、構図合わせがスムーズに行えない、ピント合わせに使いにくいという弱点もありました。
それがE-M1Xからライブビューブースト2で、「LV画質優先」モードと「LV表示速度優先」モードの選択ができるようになりました。

富士山の上空をめぐる冬の星々をライブコンポジットで。ライブビューブースト2の表示速度優先だと、構図の中に明るい星がなくても、見えている中から適当に星を選んでそのまま拡大MFが可能です。撮影の手間が大きく省けてサクサク撮影に入れます。

月が昇ってきたので望遠レンズで富士山をクローズアップ。半逆光の低い位置からの光で、富士山の荒々しい山肌を克明に撮影できました。絞り開放でも大変にシャープなレンズです。

ライブビューブースト2の画質優先は従来のライブビューブースト2と同じですが、「表示速度優先」設定ではフレームレートがかなり早くなり、カメラの動きと画面表示のタイムラグがほとんど気にならないレベルになりました。それで構図合わせがたいへんスムーズにできます。これは星空撮影において、とても大きな進化です。
拡大表示時には少しだけフレームレートが下がります。しかしピント合わせに支障は無いレベルで、画面に映る小さな星でらくらくピント合わせが可能です。
これまでのようにライブビューブースト2を解除してピント合わせのためにわざわざ明るい星や遠くの明かりにカメラを向ける必要がありません。ライブビューブースト2でのピント合わせは、明るい星よりも適度に暗くて像の小さい星の方がピントのピークがわかりやすいです。

そういえば、この新しいライブビューブースト2が搭載されたおかげで、これまで非常に難しかった撮影もできるようになりました。
東京郊外の自宅近くの森に、古い巨大な固定パラボラアンテナがあります。ここには色々な野鳥が羽を休めに来ます。オオタカも狩の見張りのためによく現れるのですが、私は天体を撮影するのによく使う500mm F5.6のフローライトレンズ望遠鏡で、これらの野鳥たちの撮影を楽しんだりもしています。
夜になるとフクロウもやって来て「ゴロスケ、ホッホー」と聞こえてきます。とても東京の住宅地とは思えない野鳥天国です。

フクロウは、鳴いていないときに数秒間じっと静止していることがあります。その動きをモニターで確認しながら、ショックの無い電子シャッターの静音撮影モードでシャッターを切ります。

  • OM-D E-M1X
  • 500mm F5.6 フローライトレンズ望遠鏡(MF)
  • 絞り値:F5.6
  • シャッター速度:1.6秒
  • ISO感度:6400

光っている星とは違って、このように照明の当たっていない夜のフクロウに超望遠レンズでピントを合わせるのは、AFはもちろんMFでも普通はほとんど無理な話です。それどころか、ファインダーで姿を確認することすら難しいと思います。たとえ光学ファインダーの一眼レフでも。
オリンパスのこれまでのライブビューブースト2では姿を見ることはできましたが、ピントや構図を合わせるのが難しく、フレームレートの遅い映像で辛抱強く操作を行う必要がありました。
それがE-M1Xではライブビューブースト2の表示速度優先モードのおかげで、かなり楽にできるようになったのです。空を背景にしたフクロウのシルエットやパラボラのフレームでピントのピークが確実につかめます。超望遠レンズでの夜間使用でも、構図合わせがほぼ不自由なく出来るようにもなりました。たいへん大きな進化です。