写真撮影レポート「OM-D E-M1Xで星空を撮る」

驚愕の手振れ補正性能

さて、先にもE-M1Xの手持ちでの星空撮影について書きましたが、今回、さらなる実験をしてみました。北海道に向かうフェリーのデッキから、手持ちで天の川を撮るという企みです。結果はこの通り。10秒露出で画面中央部の星は、じつに見事に点像です。

天の川にある明るい星は金星、右上が木星。雲の隙間に土星が見えています。水平線の三つの明かりは、福島沖で実証研究が行われている浮体式洋上風力発電の施設です。

航行中のデッキなので、凍てつく強風にもろに煽られます。それに耐えようとカメラを持つ手は肘を手すりに置いていますが、ひと時も安定してカメラを構えることができません。その結果、カメラぶれが発生し、超広角レンズの原理的な現象により、画面周辺部の星はどうしても点像にはなりません。
しかし、画面中心部の星は常に一点に捉えていて、完全に点像になっています。E-M1Xの手振れ補正性能の物凄さを証明しています。これには本当に驚かされました。

ところが、そのまま撮影を続けていたら、突然に星が水平方向に大きく流れるようになってしまって、これは不思議でした。画像を拡大してよく見ると、沖の船の光はそれほど流れず、雲の一部はブレずに写っているようです。

すごい手振れ補正だと思って撮影していたら、突然に星が線になって写るようになりました。

これはどうやら、この時にフェリーがわずかに進路を変更したのだと考えられます。手振れ補正は「S-IS AUTO」に設定していました。それでカメラはフェリーの進路変更を、流し撮りをしていると判断したのでしょう。星の光跡は左右にほぼ一直線に流れているだけで、上下方向のブレはよく抑えられていることがわかります。まさに流し撮りの手振れ補正状態になっています。

7-14mm F2.8 PROの超広角レンズでは、大きなカメラぶれが発生すると、原理的な現象で、画面中心部と画面周辺部の結像位置のずれ量の差も大きくなってしまいます。しかし、激しく風に煽られるデッキ上で30秒の手持ち撮影でも、画面中央は完全な点像の星!
一部がしっかり止まり周辺がブレるのは、かえって航行中のフェリーの臨場感を感じられるので、良い効果かもしれません。

金星の光が海面に映っているのがわかります。

フェリーの進行方向に向けて撮影。画面中央にはくちょう座があります。夜で見えませんが、向かい風で正面から波しぶきが飛んできます。

このような揺れる乗り物の上からでは三脚を使用しても画面全体がブレてしまうので、点像に撮影することは不可能なわけですが、すぐれた手振れ補正で、このように重要な画面中心部をブラさずに写すことができるのです。
もしかしたら、動画撮影に使用するジンバルなどを使えば同様なことが可能かもしれません。しかし、特別な装置を使用することなく、カメラ内蔵手振れ補正システムで実現できていることは、本当に驚くべきことです。まさに驚愕の手振れ補正機能です。

これ以上露出を伸ばして30秒を超えるような長時間露出になると、今度は本当に地球の自転で星が伸びるようになってきます(あるいは、星が止まって地面が流れる?)。E-M1X開発陣は、本当にすごいことを実現してくれました。
メーカー発表では、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとの組み合わせで最高約7.5段、ボディー単体で最高約7.0段の補正効果があるとしています。しかし、条件によっては、それ以上の能力を発揮することもあるようです。星空撮影に新しい世界が開けて来る予感がします。

夕方に撮影したフェリーのデッキです。夜にはわかりませんでしたが、航行中はこんな状態だったのです。

E-M1Xの一つのウリである「ライブND」を使って海面を流し、航行中であることを強調しました。これももちろん手持ち撮影、手振れ補正は「S-IS AUTO」です。海面は綺麗に流れていますが、船体はしっかり止まっています。

正面から飛んで来る波しぶきが7-14mm F2.8レンズの大きな前玉にもろにかかります。私の髪も塩まみれに。
それでもE-M1XとPROレンズの防塵防滴性能は信頼できるので、まったく安心です。
撮影後には水拭きして塩気をしっかり取っておいたことは言うまでもありません。

手持ちハイレゾ撮影

E-M1Xで注目されている機能に「手持ちハイレゾ撮影」があります。三脚が不要になったのは大きな福音ですが、露出中に肝心の星が動いてしまう星空撮影では、手持ちでも三脚撮影でも、正直なところあまり出番はありません。もしや月面の拡大撮影なら…と思い試したところ、気流の影響で像が常に揺らいでいる状態では、残念ながらハイレゾの効果はほとんど見られないものでした。
しかし、夕方や明け方の明るいうちの星景であれば、普通の風景と同じようにハイレゾ撮影の効果が期待できます。

武蔵野の雑木林です。月齢7.2の上弦前の月が枯木立の向こうにかかっています。広角レンズと望遠レンズで手持ちハイレゾを試してみました。

手持ちハイレゾ、広角12mmで月のウサギ模様がしっかりわかります。夕日がわずかに当たる、春を待つ小枝の描写はハイレゾならではの繊細さ。とても気持ちのいい解像感です。望遠100mmでは、月の欠けぎわのクレーターまでしっかりと解像できています。いずれもノーマル撮影では解像限界に近く、微妙な描写だったところです。
一般的な風景と星景の境界線にあるようなとき、三脚なしで高解像度の画像が得られる手持ちハイレゾが有効な場面は、確かにあります。

星空撮影に新しい表現の可能性を予感するE-M1X

この冬の約3ヶ月、E-M1Xを星空撮影に持ち出して使ってきました。特に寒冷地における操作性の改善と高剛性ボディー、電源の多様性など、E-M1 Mark IIに比べてカメラとして基本的な部分のブラッシュアップは、星空撮影にも大変有効なものだと感じました。それだけでも撮影現場のストレスが軽減されるので、導入の価値は十分にあると考えます。
なかでも、いちばん感銘を受けたのは「化け物」とでも形容できそうな手振れ補正能力の凄さと、ライブビューブースト2の改良です。その両者を組み合わせることで、これまで星空撮影を縛っていた三脚撮影からの脱出をすることができます。これは今後の星空写真の表現を大きく変えて行く機能かもしれません。
その開発には相当な研究と努力を重ねてきたのだと想像しますが、これはE-M1Xを使うフォトグラファーの創造力を試す機能でもあると感じています。まさに開発陣から挑戦状を受け取ったような思いです。自分自身の脱皮ができるかどうかが、私の今後の課題になりました。