深海生物を撮る!

深海生物を撮る!(前編)

前編では、撮影にオリンパスのカメラを使う理由や、みなさんが藤原さんにぜひ聞きたい!と思っている、潜水調査船「しんかい6500」による深海生物の捕獲方法、深海生物が水圧の変化に耐えられる理由、深海生物の撮影秘話などを解説していただきました。後編では、不思議で美しい深海生物の生態や特長などもたくさんご紹介します。

困難な状況に応えてくれた、オリンパス

イトエラゴカイの一種
イトエラゴカイの一種
アメリカン・インディアンの髪飾りのようなエラを持つゴカイの仲間。熱水噴出孔の近傍に暮らす。
ウラナイカジカの一種
ウラナイカジカの一種
比較的飼育の容易な深海魚。この個体は3年以上陸上飼育を継続中で、順調に成長している。
コトクラゲ
コトクラゲ
昭和天皇が発見された底生性のクシクラゲの仲間。学名に「皇帝」を意味するラテン語を冠する。

私たちが研究のフィールドとする「深海」はアクセスが困難で、欲しい生物にいつでも出会える訳ではありません。やっとの思いで出会えた生物を確実に写真に残すために、その場で結果を確認できて、すぐに撮り直しのきくデジタルフォトはとても魅力的でした。
そこで比較的早い段階でフィルムからデジタルへと移行しました。最初に手にしたデジタル一眼レフの利便性には大変驚かされました。しかし、すぐにセンサーへのゴミの付着が気になるようになり、レンズ交換にはとても神経を使いました。

そのような時にオリンパスからデジタル一眼レフのゴミ問題を解決するダストリダクションシステムを搭載した一眼レフが発表されました。さらに防塵・防滴仕様になっていて、海水に濡れた手でカメラを持つこともある私には完璧な製品に思えました。他メーカーのレンズ資産は多少ありましたが、オリンパスの思想とカメラの仕様に惹かれて、一も二もなく移行しました。

使ってみて更に気に入ったのは軽量さとその発色です。
一つの生きものに何時間も時間をかけることがよくありますので、カメラの重量は余り重くない方がありがたい。またその発色はナマの深海生物の輝きを十分に引き出してくれました。 加えて、私はマクロ撮影が多いので被写界深度の深さも重宝しています。

ゲイコツナメクジウオ
ゲイコツナメクジウオ
海底に沈んだ鯨遺骸の周辺から発見された新種のナメクジウオの仲間。このグループとしては世界で最も深い場所(水深約250メートル)に暮らす。
ウミクワガタの一種
ウミクワガタの一種
海底に沈んだ鯨の骨を住み家とするウミクワガタの新種。幼生期には吸血生活を送る。
ムラサキヌタウナギ
ムラサキヌタウナギ
アゴを持たない原始的な脊椎動物で、深海底に沈んだ動物の死骸などを餌とする「海底の掃除屋」である。
オオナミカザリダマ
オオナミカザリダマ
美しい貝殻と軟体部を持つタマガイの仲間。海底に沈んだ鯨の骨に暮らす二枚貝を餌とする。

深海生物ならではの難易度の高い撮影

ある程度大型の深海生物の場合、潜水調査船「しんかい6500」の窓から撮影できることもあるのですが、この窓はアクリルで出来ていて水圧によって歪んでしまうのでシャープな写真を撮るのは簡単ではありません。
私が研究対象としている生物は小型なものが多いので、撮影は基本的に採集して船上で行います。採集には主にマニピュレータ(ロボットアーム)とスラープガン(水中掃除機)を用います。船上に揚げた生物は大気圧で飼育する場合が多く、特別な加圧装置はあまり使いません。

よく、深海生物を深場から一気に揚げてくると体が膨らんだり、破裂したりすると思っている方がいらっしゃいますが、そのようなことが起こるのは深海の中でも比較的浅いところに暮らす一部の魚類だけです。これは体内に気体で充たされたウキブクロを持っているからで、減圧によって気体が膨張して眼や内臓を押し出します。しかし深海魚にはウキブクロを持たないものや、持っていてもその中に気体ではなく脂質を詰めているものが多く、結果として浅い所まで引き上げても膨らむことはありません。

深海から採集した生物は小型のガラス水槽に入れ、ツインフラッシュを光源にして撮影しています。
撮影に際して気をつけることは水温の管理です。例えば日本近海の水深千メートルでは水温はだいたい3から4℃です。水圧変化には耐えることができた深海生物でも水温の上昇には弱いものが多いので、常に低い温度を維持しなければなりません。
そのため撮影には海水氷が欠かせません。しかし十分に冷やすと、今度はガラス水槽表面の結露が問題になります。界面活性剤で拭くことによってある程度の時間はクリアなガラス面を確保できますが、そう長くは続きません。生物が最高の表情を見せてくれたのに撮影してみたら拭き残しの結露が写っていた、ということもよくあります。どうしても長時間撮影しなければならないときは低温室に水槽をセットすることもあります。この場合、結露に悩まされることはありませんが、寒さとの戦いになります。

サツマハオリムシ
サツマハオリムシ
口も消化管も持たないゴカイの仲間。体内の共生細菌が硫化水素をエネルギー源として有機物を合成し、ハオリムシを養う。
ミドリフサアンコウ
ミドリフサアンコウ
美麗なアンコウの仲間。体に不釣り合いなほど小さいルアーを鼻先に備える。
ワレカラの一種
ワレカラの一種
大型のエゾイバラガニの甲羅の上で暮らすワレカラの仲間。