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Tough TG-1 開発ストーリー:Toughストーリー

f2.0 Tough TG-1 Development story タフ TG-1 開発ストーリー ユーザーと共に切り開くToughの未来|聞き手:フリーランサー 伊藤 僑

「Toughに明るいレンズ」を合言葉に挑戦の扉は開かれた

  • オリンパスから“Tough”(タフ)の遺伝子を継承する新世代のフラッグシップ “TG-1”が2012年6月に発売された。
    Toughシリーズといえば、過酷な環境下でも安心して利用できる優れた防水、防塵、耐衝撃性を備えたカメラの先駆的存在として、多くのスポーツ愛好家から支持を集めてきた製品だ。利用されているスポーツ・ジャンルも、登山、スキューバダイビング、マラソンなど実に幅広い。

    しかし、最高水準のタフさを実現するためには、コンパクトなボディーサイズの中に、高度な耐衝撃性を得るための緩衝部分や、水や塵の侵入を防ぐ厳重なパッキン部分などを設けなければならない。場所をとる明るいレンズの搭載など不可能だと思われてきた。

TG-1では、見事にその常識が覆された。2006年の登場以来、常に市場を牽引してきたToughシリーズを、さらなる高次元へと進化させるため、TG-1ではF2.0のレンズを搭載することに成功。発売以来大人気を博している。

Toughシリーズ史上最も明るいF2.0ハイスピードレンズをはじめ、iHSテクノロジーによる高画質、表現の可能性を広げるシステムアクセサリーなど、多くの先進機能を満載したTG-1は、いかにして誕生したのだろうか。中でも気になるのが、これまで誰もなし得ることができなかった、折り曲げ式ズームレンズによるF2.0の光学系だ。驚異的に明るいレンズを搭載しながら、定評あるタフさにも一段と磨きをかけた新世代Tough誕生の秘密を解き明かすべく、オリンパスの開発陣を訪ねた。

2000人のアンケートに耳を傾けることから始まった

  • ひと目見ただけでTG-1は、従来のToughシリーズとは一線を画す製品であることが分かる。
    Toughのアイコン的存在であった右上のレンズ位置は中央部へ移され、レンズ径も明らかに大きくなった。そのデザインは、強靭さだけではなく、優れた描画性能をも手に入れたことを強く主張している。
    開発者たちは既に定評あるToughシリーズを、なぜ、いま大きく変革させようと考えたのだろうか。彼らにその疑問を投げかけてみた。

    「開発に入る前、私たちがまず取り組んだのは、真摯にお客様の声に耳を傾けることでした」と語るのはTG-1の商品企画を担当した森氏。

    オリンパスでは、Toughシリーズの改善ポイントを探るために大掛かりなユーザーアンケートを実施している。
    有効回答数は約3800件。その中で約2000件、各設問に自分の言葉で答えるフリーワード方式のアンケートに答えている。それだけToughへ寄せるユーザーの期待は大きいといえる。
    「すべての回答を読み込み、詳細に分析した結果、ユーザーのToughシリーズに対する要望や不満点が明らかになってきました」(森氏)

  • 商品企画担当 森

「シャッターチャンスを逃さないよう、オートフォーカスの合焦スピードをもっと速くして欲しい」「カメラの起動が遅い」「夕暮れ時などの薄暗い中で撮影するとブレてしまう」「もっと高画質化を図って欲しい」……等々。
森氏によれば、中でも多かったのが画質に関するものだったそうだ。
これらの不満や要望に一つ一つ、丁寧に応えていくことから、TG-1の開発は始まった。

Toughにもっと明るいレンズを!

極限のタフネスさを追求するために、開発者はプロアスリートに協力を求めることもある。

  • 光学(レンズ)設計の早川氏によれば、彼らがどのような環境でToughを使い、どのような不満を感じているのかを知るために、開発者自らがプロアスリートと行動を共にすることも珍しくないという。
    TG-1の開発がスタートする少し前にも、宣伝用の撮影を行うため、国際山岳ガイドやアウトドアの専門家と丹沢山系に行く機会があった。そこで早川氏は、光学設計の若いメンバーを同行させている。

    丹沢というと、小さな子供でも山登りや川遊びを楽しめる家族連れに最適な観光地として知られている。だが、山のプロたちが案内するコースは生易しいものではかった。
    険しい登山道や足場の悪い渓流沿いを懸命に登り続け、やっとの思いで撮影ポイントに到着すると、休憩もつかの間に、また次の目的地へ移動する……。かなり厳しい行程だったらしく、体力自慢の若い開発者たちも、その後しばらくは筋肉痛が治らなかったらしい。

  • 光学開発担当 早川

そして、丹沢から戻った彼らからは、「山の中は予想以上に暗くて、残念ながら、思い通りの撮影をすることはできませんでした」という厳しい現実が突きつけられた。
宣伝用の写真を撮るプロカメラマンは、明るいレンズを装着したデジタル一眼レフで順調に撮影を続けていた。だが、開発者が持参した旧型Toughの場合、同条件では被写体ぶれがひどくてうまく撮れなかった。手ぶれ補正機能はついていたものの、レンズの暗さを十分カバーすることはできなかったのだ。
「Toughの活躍の場であるはずの山の中で、期待通りのいい写真が撮れないとは……」
この出来事が、「次世代のToughには明るいレンズが必要だ」と早川氏が考え始める契機になったそうだ。

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山や海で活躍してこそToughだ

  • 開発者が研究のため撮影した写真。

実は筆者も、山の中を走るトレイルランニングを愛好しており、季節ごとに移り変わる美しい自然の表情を撮影することを楽しみにしている。中でも素晴らしいのが、夜明け前や夕暮れ時の刻々と変化する山々の光景だ。
しかし、その撮影はかなり難しい。手軽に持参できるスマートフォンや小型のデジカメではレンズが暗すぎるし、かといって明るいレンズを装着した一眼レフと大型三脚を持参するには、荷物が重くなり過ぎてしまう。
「ものすごく美しい夜明けの景色が撮れたと思ったのに、家に帰って見たらブレブレだった」という経験をした人も少なくないに違いない。
明るいレンズが求められるのは山ばかりではない。
オリンパスにはスキューバダイビングを愛好する開発者が多いのだが、そんな彼らからも、「海の中は見た目以上に暗いので、Toughのレンズがもっと明るくなればいいのに」という声が上がっていた。
このように、Toughと明るいF2.0レンズの親和性が高いことは誰もが認めるところだ。しかし、高度な防水、防塵、耐衝撃性能を求められるToughには、サイズ面や形状面の制約も多く、一眼レフ並みの明るいレンズを搭載することは簡単ではない。

早川氏が初めて「ToughにF2.0のレンズを使いたい」と提案した時にも、「お前は突然、何を言い出すんだ」と相手にしてもらえなかったという。
それでも彼はあきらめず、F2.0という明るいレンズの必要性を根気よく関係者に説いて回った。宴席で上司に直訴したこともあったという。
やがてその努力は報われ、開発のゴーサインが出る。薄暗い場所でも美しい写真が撮りたいというユーザーの声も追い風となったようだ。
「でも、本当にたいへんなのはそこからでした」(早川氏)

前例がないからこそF2.0にこだわる

開発はスタートしたものの、Toughシリーズのようなジャンルに属すカメラへのF2.0レンズ搭載は前例がなく、早川氏ら光学系開発者にとっては試行錯誤の連続だった。
従来のToughと同等のコンパクトなボディーサイズの中に、明るいF2.0のレンズを搭載するためには、ゼロから光学系を開発しなければならない。多くの明るいレンズを搭載したカメラを見れば分かるように、明るいレンズを使えばレンズ部分が大きくなってしまうのが普通だ。高度な防水性や耐衝撃性のために、レンズがせり出すような構造を採れないToughにとって、かなりの難問といっていい。

  • Chemical mock A
  • Chemical mock B

しかも、開発に使える時間は既存製品と変わりはなく、限られていたのだ。
「でも、自分で言い出したことですから、あきらめるわけにはいきません。やるしかないと頑張っていると、なんとか答えは出てくるものですね」
展望が見えてきた早川氏は、次の開発ステップへと進めるためにプロダクトリーダーである高須氏に声をかけた。
「我々には、この市場を牽引してきたという自負があります。Toughの競合品が各社から出てくる中で差別化を図っていくためには、小手先の機能追加競争をするよりも、カメラの基本に立ち返る必要があるのではないかと私も考えていました」と高須氏は当時を振り返る。

  • そんな高須氏にとって、F2.0のレンズを採用するというアイデアは、まさに狙い通りのものだった。
    「山の中でも、水の中でも、そして、日常的なタウンユースでも、使う場所や時間を選ばず誰にでもいい写真が撮れる。それこそがToughの名にふさわしいカメラといえるでしょう」

  • 商品開発担当 高須

ユーザーと開発者の思いがTG-1へ結実

F2.0というプロカメラマンが使うような明るいレンズと、使う場所を選ばない強靭さが売り物のコンパクトカメラを組み合わせることが、いかに困難なことであるかは、開発者自らが一番分かっているはずだった。
通常の開発行程では、コスト面や開発者の負担などを考慮して、既存製品のパーツを一部流用することが当たり前になっている。しかし、「F2.0のレンズを採用することになったTG-1の場合には、ほとんどの部品を新たに開発しなければなりませんでした」と森氏。
それだけ、手間も時間も予算もかかるということだ。
また、TG-1のように、これまでに例のない革新的な製品を開発する場合には、従来の手順を踏んでいては時間がかかりすぎるため、早い時期から様々な分野の開発者を巻き込んでいる。
デザインセンターの野原氏によれば、通常は、レンズデバイスが決まってからデザイナーに話しが来るという。ところがTG-1の場合には、計画がスタートしてまだ間もないころに声がかかり、光学系などと同時期からデザインに着手することになったという。

  • プロダクトデザイン担当 野原

  • 「休憩室でコーヒーを飲んでいたら、いきなり声をかけられ、光学開発の部屋に連行されてしまいました(笑)」と野原氏。
    まだ詳しいことが何も決まっていない段階から多くの人たちを巻き込み、スタートしたTG-1の開発。前例のない挑戦だったからこそ、彼らのモチベーションは俄然高まり、開発者たちの才能がフルに発揮されていくことになる。
    アンケートで集められたユーザーひとり一人の声と、早川氏のF2.0のレンズをToughに使いたいという強い思いが、次々と開発者たちに伝染し、新世代のTG-1へと結実していったのだ。

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