中野耕志OM-Dと旅する世界の野鳥

OM-Dシステムの機動力を生かして、写真家・中野耕志が世界を旅しながら野鳥撮影を楽しむ本企画「OM-Dと旅する世界の野鳥」。
計4回にわたって作品を紹介してまいります。中野耕志が撮る世界の野鳥をお楽しみください。

第三回 オーストラリア

オリンパスOM-Dとともに、写真家・中野耕志が世界を旅しながら野鳥撮影を楽しむ本企画「OM-Dと旅する世界の野鳥」。第三回はオーストラリアである。オーストラリアは太古の昔に早い時期に他の大陸から隔離されたため、生物相が非常にユニークであることで知られている。

オーストラリアは熱帯雨林や砂漠、島など多種多様な環境が存在しているため野鳥の種類数も非常に多く、現在までに記録された野鳥は970種を超える。オーストラリアにおける野鳥観察/撮影の魅力は、他の大陸では見られない独自の野鳥を観察できることはもちろんだが、野鳥との距離が近いことが挙げられる。もちろんむやみに野鳥に近づくべきではないが、じっとしていれば野鳥の方から近づいてくることもあるなど、日本における野鳥撮影と比べるとハードルが低いといえる。また東海岸のケアンズやシドニーなどは日本から行きやすいことや、比較的治安も良いことも海外探鳥地として人気の場所となっている。

僕はこれまでに何度かオーストラリア取材に出かけているが、今回最大の目的はピンクロビン(Pink Robin)を撮影することである。ピンクロビンは和名をセグロサンショクヒタキといい、頭から背中にかけては黒色、腹部が鮮やかなピンク色という、とても鮮やかで可愛らしい小鳥である。

ピンクロビンはオーストラリア南東部に生息しており、僕も以前タスマニアで観察したことはあったが、そのときは育雛期だったので子育ての邪魔をしないようあまり撮影しなかった。そこで今回はピンクロビンが観察しやすく、かつ相手に与えるストレスを低減できそうな初夏に狙いを定めて渡航することにした。

今回は初めての場所で手探りの探鳥なので、最初の数日間はいつものようにカメラを持たずに観察に徹することにした。カメラを持つと撮影に集中してしまい、大事なものを見落としてしまう可能性が高いからである。まずは双眼鏡や野鳥図鑑など観察用具のみを携えて、周囲の環境や鳥相を確かめるのが基本だ。撮影のために来たのにカメラを持たないなんて遠回りだと思われるかもしれないが、滞在期間が限られているからこそ最初に全体像を把握して撮影計画を立てるほうが効率が良いのである。いくつかの環境を巡ると、鬱蒼と茂った木々にはところどころ地衣類が付着していたり、地面の岩は苔に覆われていたりと、普段から雨が多い地域のようだった。

未知の土地を訪れる際、どのような機材が必要なのかを事前に予想するのは難しいものである。どのようなカメラが適しているのか、どのようなレンズを持ち込めばいいのかなど、撮影前の悩みは尽きない。今回はピンクロビンを撮影するため、林内に設けられたトレイルを片っ端から歩いて探すことを想定してしていたので、撮影機材はできるだけ軽量化したかった。機動力を持たせるためときには手持ち撮影がメインになるはずだ。超望遠撮影ができて、暗い林内でも手持ち撮影ができるほど手ぶれ補正が強力で、突然の雨でも撮影を続行できるほどヘビーデューティなカメラが望ましい。またオーストラリアへの航空便は機内持ち込み手荷物の重量制限が厳しい傾向にあるので、性能と機動力を満たすのはオリンパスOM-Dシステムしか選択肢がなかったといえる。このとき実際に持ち込んだのは、カメラはE-M1XとE-M1 Mark IIIの2台、レンズは300mm F4.0 IS PRO、40-150mm F2.8 PRO、12-40mm F2.8 PRO、MC-14、MC-20である。このフルセットでもシステム重量4kg程度で、バックパックに双眼鏡や雨具、食料などを詰め込んでもまだ余裕がある。

ピンクロビンが棲むと言われる森を目指し、当初の計画通り片っ端からトレイルを歩いてピンクロビンを探すと、2日目にして美しいオスの成鳥に出会うことができた。ここで大切なのは、いきなり撮影はせずにまずは観察に徹することである。野鳥撮影で重要なのは、事前の観察を通じてその個体の正常行動を把握しておくことで、撮影者である自分が彼らの生活空間に入り込んだときにその正常行動を変えないようにすること、また行動が変わったときに気づけることである。また観察を通じてその個体との距離感を掴み、撮らせてくれる個体なのか、または別の個体を探した方が良いのかを早い段階で見極めることも、限られた時間内で良い結果を出すテクニックでもある。

このようなスタイルで初期のロケハンといくつかの個体を観察した結果、良い個体と良い撮影地に巡り会うことができた。そこは渓流沿いのトレイルで、約1時間おきにオスとメスが同時に採餌に訪れるのを観察を通じて突き止めた。渓流には苔むした倒木が横たわり、背景も良好なので撮影環境として理想的な場所だった。

渓流沿いで薄暗いので、当然ながら超望遠撮影における露出は厳しい。このような場合はISO感度を上げてシャッター速度を確保するのが定石だが、E-M1XもE-M1 Mark IIIも最大7.5段もの手ぶれ補正能力を有しているので、低ISO感度で高画質を維持したまま低速シャッターでの手持ち撮影が可能だ。もちろん相手が止まっていることが大前提だが、300mm F4.0 + MC-14を組み合わせた840mm相当の超望遠撮影で、1/15秒で手持ち撮影できてしまうほどである。このような条件下において、同等のフルサイズ一眼レフカメラシステムを投入しようものならば、800mm F5.6レンズと大型三脚が必要になり、カメラとレンズ、三脚を含めたシステム重量は約10kgにもなる。さらに1/125秒以下の低速シャッター速度域においては一眼レフカメラ自身が発生させるミラーショックやシャッター幕の振動によりカメラブレが発生しやすく、三脚を使用したとしても極端に歩留まりが低下するので、低速シャッター時の撮影効率はミラーレスカメラに軍配が上がる。

このピンクロビンが棲む森はしっとりとした雰囲気が美しかったので、いくつかの風景写真も撮影した。そのときに多用したのがハイレゾショットである。E-M1XとE-M1 Mark IIIでは三脚を使わずとも5000万画素相当のハイレゾショットを撮影できるので、機動力を損なうことなくより簡単に高画質を得られるようになった。三脚を使用できる場合は8000万画素相当の三脚ハイレゾ撮影も可能だ。